“似た者夫婦”という言葉がありまして、長年連れ添ったご夫婦というのは、食の好みだとか、物事の考え方だとかがなんとなく似てくるものなんだそうです。なるほど、言われてみれば私の周囲にも、よく似たご夫婦がいらっしゃいますな。ま、ひとりもんの私には縁遠い話ですけど。
講談社の文芸誌「群像」の2015年11月号に掲載された本谷有希子「異類婚姻譚」が、2015年下期第151回芥川賞の候補となりまして、図書館でバックナンバーを借りられたこともあり、読んでみました。
物語は、ある夫婦を描いています。語り部となるのはその妻の方。結婚して4年ほどで子供はなく、猫を一匹飼っています。夫は、ズボラ、グータラを絵に描いたようなダメ人間で、自分からは何も行動しようとしない男。はっきり言ってサイテー野郎で、読んでいてムカムカしちゃいます。こういう人間を書かせると、本谷さんは上手いんですよね。
語り部の妻は、この頃自分と夫が似てきたような気がしてなりません。それに、家でダラダラしているときの夫は、時折顔のパーツが崩れているように見えます。
ある日から、夫はダブレットのゲームにハマり出します。画面に現れるコインの絵にタッチしてお金を集めるというゲームです。全然面白そうな感じはしないのですが、夫は会社をズル休みしてまでゲームにのめり込みます。
この辺りから話はだんだんと怖くなっていき、最後には夫婦に不思議で残酷な結末が訪れるのです。
本谷さんの作品は、これまでにも数作読んできましたが、この作品は、これまでに本谷有希子テイストを醸しつつも、これまでの本谷作品とは違う色合いを感じさせます。ラストは、ホラー色が強く、グロテスクなイメージも相まって、背筋が寒くなります。
でも、そんな中でも、登場人物のキャラクターだったり、彼らが置かれているシチュエーションだったりに、笑える要素があって、怖いけど笑える世界観ができあがっていると感じました。
ところで、本谷さんですが、本作が掲載された「群像2015年11月号」が発売された2015年10月に、第一子となる女の子をご出産されています。ということは、本作は妊娠中に書かれたということなんでしょう。妊娠中にこのテイストの作品を執筆されるのを、「本谷有希子らしい」と見るか、「何か憂鬱な気分だったのかな」と見るか。さて、難しいところですね。