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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「あ、この人がこっちにも出てる!」 伊坂作品は人物相関を把握しながら読むと面白い!-伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

伊坂幸太郎の作品は、作品同士がうまくつながっていて、ある作品に登場した人物が他の作品の脇役として登場してみたり、ある作品でのエピソードが別の作品で言及されていたりとか、じっくり読むことで楽しめる仕掛けが施されていて、それが読者を楽しませる。伊坂作品が人気となっているのは、その厚生の妙が要因なのかもしれない。

アイネクライネナハトムジーク

アイネクライネナハトムジーク

 
アイネクライネナハトムジーク
 

アイネクライネナハトムジーク」には、6つの短編が収録されている。それぞれの物語は独立しているが、それぞれの世界観や登場人物は重なっているので、連作短編ということになるだろう。

全体を通じて軸となるのは、日本人初のヘビー級チャンピオン・ウィンストン小野の試合に絡めた登場人物たちの人生模様だ。

「アイネクライネ」の主人公・僕(佐藤)は、リサーチ会社のシステム管理者として働いている。突然妻子が家を出てしまった先輩社員の藤間が、自暴自棄になってサーバーを蹴飛ばしてしまい、ハードディスクのデータが消失したため、佐藤は止むなく街頭リサーチをするはめになる。彼がリサーチに苦戦する中で、駅構内のテレビ画面に映しだされていたのが、ウィンストン小野の世界挑戦の試合だった。

「ライトヘビー」では、美容師のわたし(美奈子)が常連客の板橋香織の弟からある日突然電話を受ける。香織から「弟に携帯番号を教えて良いか」と聞かれていたことを思い出した美奈子は、突然の電話に困惑しつつも、時折電話で話すだけの関係になっていく。

ドクメンタ」の主人公は、「アイネクライネ」で自暴自棄になって会社のサーバーを蹴りとばした藤間だ。この中では、藤間と妻、娘との関係と、妻子がフイに家を出て行ってしまったことの顛末が描かれる。この作品では、ウィンストン小野の試合の描写は出てこないが、藤間がウィンストン小野の試合を見て元気になり、後輩の佐藤(「アイネクライネ」の主人公・僕)がウィンストン小野のサインをもらってくれたエピソードがある。

その後、「ルックスライク」、「メイクアップ」の2編を挟み、ラストに収録されている「ナハトムジーク」では、そのまでの5編を伏線として、ウィンストン小野自身の物語が、「現在」、「十九年前」(チャンピオンになった直後、最初の防衛戦前)、「その十年後」(初防衛戦で負け、表舞台から遠ざかっていた小野の世界再挑戦)のパートに分けて話が展開する。

全体の軸になるのは、ウィンストン小野の世界戦であるが、人物の中核を担っていて読者に強い印象を残すキャラクターは、織田一真という人物であろう。彼は、学園のマドンナ的存在であった由美を、どういうわけだか口説き落として結婚した。この一真が、どうにも掴みどころのないキャラなのだ。軽佻浮薄という言葉が適しているが、必ずしもチャランポランというわけでもないように思える。実に憎めないキャラなのである。

本レビューのリードにも書いたように、伊坂作品は人物の相関関係を把握して読むと面白い。そこで今回、本作品の主要な登場人物の相関関係を図式化してみた。

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作品世界を読み解くための参考になれば幸いである。