タカラ~ムの本棚

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いつだって、戦争の犠牲になるのは無垢な子供たちなのだ-スヴェトラーナ・アクレシエーヴィチ「ボタン穴から見た戦争~白ロシアの子供たちの証言」

日本人の私からすると、第二次世界大戦におけるソヴィエトというのは、終戦間際になって突然日本への宣戦を布告して満州国などに攻め込み、多数の日本人捕虜をシベリアに抑留して強制労働につかせた国であり、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏した後も樺太千島列島での軍事侵攻を止めず北方領土を不法に占拠した国である。なので、どちらかというとあまりよい印象は持てない国だ。

だが、ソヴィエトは常に一方的な戦争加害者であった訳ではない。極東地域とは反対の西側、白ロシアと呼ばれる地域(現在のベラルーシ)では、ドイツ軍のソヴィエト侵攻によって多くの犠牲が生まれ、その中には数多くの子供たちも含まれていた。

ボタン穴から見た戦争―白ロシアの子供たちの証言

ボタン穴から見た戦争―白ロシアの子供たちの証言

 

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ「ボタン穴から見た戦争」は、1941年から1945年の独ソ戦の渦中に白ロシアに生きた子供たちだった人々101人の証言を記録したノンフィクションである。

証言は、7つの章に分けて構成されている。

  • ドイツ軍による侵攻が開始された1941年6月22日の記録・・・「一九四一年六月二十二日」
  • ドイツ軍により占領された街の記録・・・「ドイツ軍の下で」
  • 戦火を逃れ疎開した街での辛く厳しい日々・・・「疎開の日々」
  • 戦争によって肉親を奪われた孤児たちの記録・・・「孤児たち」
  • 少年兵として戦争に志願した子供たちの記録・・・「少年兵」
  • 戦争の中で経験した様々な出来事の記憶をたどる証言・・・「ただ記憶の中で」
  • そして、長い戦争が終わり復興へと歩みだした人々の記録・・・「戦争が終わって」

そこに記されている当時の子供たちの証言は、戦争によって犠牲になるのが、いつの時代も罪もない子供たちなのだという事実を如実に突きつけてくる。突然に戦争に巻き込まれ、住む場所を奪われ、父親や母親など肉親を殺され、孤児として生きることを余儀なくされる。それがどれほどの悲劇であったか、平和な時代に生きる私には、想像することすら難しい。ただ言えることは、今でも世界のどこかで戦争、紛争が続いていて、そこではたくさんの子供たちが犠牲となっているという現実があるということ。これ以上、子供たちの悲劇を繰り返させないために、私たちは何ができるのかを常に問い続けていかなければならないのだということ。

最後の証言「私たちで生き証人は終わりです」の最後の言葉を紹介したい。

先に亡くなったのはあのすばらしいお母さんです。それからお父さんも亡くなりました。そこで実感したんです。私たちはあの時期の、あの地方の生き残りの最後だって自覚したんです。今、私たちは語らなければなりません。
最後の生き証人です……。

戦争は悲劇しか生まないということを、本書に記された証言から知らなければならない。そして、いつかあらゆる戦争の“最後の証言者”を作らなければならない。