誰しも、「寄る年波には勝てない」はずである。身体はガタつき、歩くこともままならなくなり、物忘れもひどくなっていく。家族に先立たれることもあるだろうし、古くからの旧友たちも櫛の歯が欠けるようにひとりひとり減っていく。
もう過去はいらない バック・シャッツ・シリーズ (創元推理文庫)
- 作者: ダニエル・フリードマン
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/08/29
- メディア: Kindle版
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しかししかし、ダニエル・フリードマン「もう過去はいらない」の主人公バック・シャッツは、並大抵のジジイではないのである。
前作のラストで腰を撃ち抜かれたバック。リハビリは続けても歩行は以前に増して不自由になり、歩行器なしでは移動もできない有様だ。そんなバックの元に古くからの因縁がある窃盗犯イライジャから連絡が入った。何者かに命を狙われているというイライジャは、バックに保護を依頼してきたのだ。バックは渋々ながら警察に仲介してイライジャを保護するが、そこを襲撃され負傷してしまう。
前作「もう年はとれない」では87歳だったバック・シャッツだが、本作では無事にひとつ年を重ねて88歳になっている。日本流に言えば「米寿」である。歩行器なしでは歩くことも満足にできないご老体ではあるが、その減らず口は健在。いや、むしろ身体が動かない分だけ口の方は絶好調なんじゃないかっていうくらいの有様だ。
そんなバックと因縁浅からぬイライジャも、御年78歳。こちらもバックに劣らずの曲者である。二人合わせて166歳。平均年齢は83歳。過去に、これほどまでに平均年齢の高いライバル対決があっただろうか。
物語は、平均年齢83歳の現在だけでは展開しない。というか、現在だけで話を展開させるには、いろいろと難しいところもあろう。いくらタフガイ老人とはいえ、そこまで無理なことはさせられない。なので、話はバックとイライジャの因縁となるエピソードとして、1965年の事件が並行して描かれている。
巻末の解説によると、バック・シャッツのシリーズは第3作、第4作の刊行が決定しているとのこと。89歳、90歳、もしかすると100歳のバックが活躍するシリーズが読めるかもしれない。何やら不安で怖い気もするが、万が一バックが寝たきりになっていたとしても、その減らず口と枕元に隠し持ったマグナム357にモノを言わせて、すべてを俺流に解決してしまうことだろう。そんな“暴走老人”を見てみたいという気がしないでもない。