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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

いつになっても忘れない。遠い子供の頃に体験した様々な思い出たち-リュドミラ・ウリツカヤ「子供時代」

今となっては遠い過去の話だが、時折ふと心に浮かぶ情景というものがある。それは、幼い子供の心に深く刻まれた思い出という宝物だ。

子供時代 (新潮クレスト・ブックス)

子供時代 (新潮クレスト・ブックス)

 

リュドミラ・ウリツカヤ「子供時代」は、ウリツカヤの紡ぎだす子供時代の様々な思い出の物語とウラジーミル・リュパロフの不思議で独特な世界観の挿絵が絶妙にコラボレーションした短編集である。

ウリツカヤが描く物語の舞台は、当然ながら著者の母国であるロシアである。しかし、その作品を読んでみると、異国の話でありながらすごく身近な話のように感じられる。本書に描かれた各々の場面を自分も子供の頃に経験したような、何か心の奥底に眠っていた記憶を呼び起こされるような感覚にとらわれる。

おつかいを頼まれて意気揚々とお出かけしたものの、思いもよらないトラブルに巻き込まれて不安な気持ちで家路についたこと。遠くの親戚の家にはじめてひとりでお泊りした日のこと。無骨で無口で怖かったおじいさんが、本当は心優しく自分を見守ってくれていたこと。なかなかできなかった友だちが、些細な出来事をきっかけにたくさんできたこと。

まだ幼い子供にとっては、経験することのすべてが新鮮で驚きに満ちている。はじめは怖くて不安がいっぱいでも、慣れればすぐに楽しくなってくる。大人たちは、いつでも優しく子供たちを見守ってくれて、でも大事なところではキチンと叱ってくれる。そういう経験を繰り返すことで、子供は成長して、やがて大人になり、次にまた自分の子供たちに新しい経験をさせる立場になっていく。

ウリツカヤの「子供時代」の主役は子供たちだけれど、そこには子供たちの成長を見守る大人たちの目線がしっかりと存在している。それは、ウリツカヤ自身が、かつての子供だった自分を大人になった自分の目線で思い起こし、懐かしく見守る目線なのではないだろうか。

リュドミラ・ウリツカヤが生まれ育った時代のロシア、当時のソ連の国家的情勢や時代背景を考えると、本書に描かれている子供時代は、決して安穏とした時代ではなかったかもしれない。しかし、どのような時代背景があっても、子供時代は何事にも代えがたい貴重な時代だ。本書から私たちが読みとくべきは、子供時代を懐かしむ気持ちなのかもしれない。