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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

小松左京の大スペクタクルSF巨編「日本沈没」に連なる海洋スペクタクルSF長編-上田早夕里「華竜の宮」

書評

大規模な地殻変動によって日本列島が海の底に沈没する未曾有の災害パニックを描いたのは、小松左京日本沈没」であった。それが、1973年のこと。それから37年の時を経た2010年に、小松左京賞で作家デビューした上田早夕里が発表したのが、本書「華竜の宮」である。実に壮大なスケールの海洋スペクタクルSF小説であり、「SFが読みたい!2011年版」でベストSF国内編の第1位に選ばれた。

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

 
華竜の宮(上) ハヤカワ文庫JA

華竜の宮(上) ハヤカワ文庫JA

 
華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

 
華竜の宮(下) ハヤカワ文庫JA

華竜の宮(下) ハヤカワ文庫JA

 

21世紀頃からその兆候が見え始めていた《ホットプルーム》と呼ばれる海底地盤の変動活動が活発化したことで、地球上の海面は数百メートル上昇し、陸地のほとんどが海面下に没した25世紀の地球。わずかに残された陸地で生活する陸上民と、特殊な進化を遂げて海で生活するようになった海上民は、それぞれのテリトリーで共存を図ってきた。しかし、陸上民はその支配の範囲を次第に海上へと拡大しようと目論みはじめ、海上民を無差別に排除する方針を打ち出す。その一方で沈静化していたホットプルームの活動が再び活発化し、遺された陸地も海中に没する可能性が出てきた。陸上民で外交官の青澄は、この危機を脱するため海上民のツキソメと接触を図る。

私が本書を読んだのは、2011年4月だった。それは、未曾有の大震災となった東日本大震災の発生から1ヶ月後ということになる。本書に描かれる地殻変動は、地震とは異なる架空の自然現象であるが、その結果がもたらす影響にはどこか共通点もあり、そういう意味では非常にリアルな気持ちで読んだのを思い出す。

「華竜の宮」のベースとなったのは、著者が以前に書いた短編「魚舟・獣舟」だ。その短編で描かれた世界観を拡張したのが、「華竜の宮」の世界観となる。

作品で描かれてる海上民の有する特殊な能力が特徴的である。
海上民は双子としてこの世に生を受けるが、一方は海に流される。流された命は、やがて成長し、魚舟となって兄弟のもとに帰ってくる。もちろん、自然の定めにより成長の過程で命を落とす場合もある。兄弟はお互いに共鳴し合い、巨大な魚舟を海上民は自在に操って、海で生活をする。

小松左京日本沈没」では、巨大な地殻変動によって日本が滅亡する。「華竜の宮」では、その範囲は全世界へと拡大している。そして、わずかに残された陸地も、活動を再開したホットプルームの影響によって海底へと没しようとしている。

本書に描かれる地球の姿は、当然ながら作家の想像によって創造された架空の世界である。しかし、東日本大震災以降、その世界観が“作家の想像力”と一概には片付けられないような状況が現実に起きている。2014年に御嶽山が噴火。2015年には、口永良部島が噴火して全島避難となり、その他に箱根山、吾妻山、蔵王、桜島で警戒が続いている。首都や東南海地域を襲うと予測されている巨大地震も懸念されているし、地殻変動以外にもスーパー台風と呼ばれる巨大な台風が日本列島を襲う可能性も懸念されている。

本書で描かれている“ホットプルーム”は、地球上の陸地をほぼ壊滅状態に陥れた。今、現実で懸念されている災害が、世界に与える影響は計り知れないものがある。大震災で壊滅的な打撃を受けた日本において、決して絵空事では済まされない事態が現実に起こりつつあるのだとしたら・・・。小説を読みながら現実の厳しさに背筋がスッと寒くなった。

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

 
魚舟・獣舟

魚舟・獣舟