タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ショートショートの神様が紡ぎだす50の世界。どこを読んでも、いつ読んでも面白い不変の名作-星新一「ボッコちゃん」

自分のお小遣いで初めて買った文庫本は、星新一の「マイ国家」(新潮文庫)だった。星新一ショートショートは、当然だけどひとつひとつが短くて読みやすく、それでいてメチャクチャに面白かった。それから、星新一の作品にハマり、お小遣いの許す範囲で毎月少しずつ文庫本を買い揃えるのが楽しくなった。

ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

 
ボッコちゃん

ボッコちゃん

 

「ボッコちゃん」は、星新一ショートショート集の中でも最高傑作といって過言ではない1冊だと思う。それは、昭和46年(1971年)に文庫初版が刊行されて、今だ増刷を続け、毎年夏の「新潮文庫の100冊」にもラインナップされているところを見ても間違いないところだ。

100satsu.com

今回、2015年版の新潮文庫の100冊に「ボッコちゃん」が選定されているのを見て、ウン十年ぶりに我が家の書棚を引っ掻き回して昔読んだはずの文庫本を探してあてた。

「ボッコちゃん」には、50編のショートショートが収録されている。文庫カバーに書かれている内容紹介によれば、

とても楽しく、ちょっぴりスリリングな自選50編

とのこと。収録作品をすべて紹介するわけにはいかないので、気になる方はグーグル先生に訊いてみましょう。

おそらく20数年ぶりか、もしかすると30年くらいぶりに読んでみたが、まったく古びていないことに改めて驚いた。そして、読み返してみると実によく内容を覚えていることに気づいた。

「ボッコちゃん」に収録されている作品の中で、私が好きな作品をあげると次のようになる。

  • 「ボッコちゃん」
  • 「おーい、でてこーい」
  • 「殺し屋ですのよ」
  • 生活維持省
  • 「最後の地球人」

表題作でもある「ボッコちゃん」は、精巧に作られた接客ロボット・ボッコちゃんと彼女に入れあげてしまった青年の物語。ロボット相手の悲しい恋の結末に背筋の凍るような怖いオチが控えている。

「おーい、でてこーい」は、ある意味で今日の環境問題、放射性廃棄物の処理問題のデタラメさを予見しているようだ。ある日、台風が去り村外れの社が壊されたあとに見つかった穴。底がまったくのぞめないくらいに深い穴を買い取った業者は、そこに次々とゴミを投棄し始めるのだが・・・。

「殺し屋ですのよ」は、ラストのオチで大笑いしてしまった作品。ライバル企業の社長を殺してやると近づいてきた女殺し屋。彼女は、狙ったターゲットは絶対に外したことのない凄腕の殺し屋だという。しかも、絶対に捕まらない方法で相手を殺害できるというのだ。そして、彼女の言うとおりターゲットが死ぬ。いったい彼女はどうやって殺したのか。その正体はいったい誰なのか。

生活維持省」と「最後の地球人」は、作品の主題となっているテーマは同じものだと思う。それは、人口問題だ。

生活維持省」では、人口を一定の水準に保つことで生きている人々の生活水準を維持しようという法律が施行されていて、無作為に選ばれた人が当局によって命を絶たれることになっている。その仕事を担当しているのが、生活維持省という役所だ。

生活維持省」という作品については、2008年に起きた、間瀬元朗のマンガ「イキガミ」が「生活維持省」と内容が酷似しているという騒動が思い出される。もう済んだ話なので細かい話はしないけど、これも興味のある方はグーグル先生に訊いてみてね。ま、参考までに「星新一公式サイト」にアップされた星新一氏の次女・マリナさんの抗議文はこちらで読めます。

hoshishinichi.com

生活維持省」が、人口抑制政策を実施している世界が舞台だとすれば、「最後の地球人」は、爆発的な人口の増加と減少に翻弄される地球を描いている。なすすべなく100億、200億と人口が増加するうちに、あるタイミングで今度は人口は減少に転じる。人口が減り続けても、いや減り続けているからこそ人々の生活は豊かさを増していく。そのはずだ。それまでは限りある資源を多くの人口で分けあっていたのが、次第にひとりあたりの取り分が多くなっていくのだから、だんだんと豊かさを増していくのは当たり前のこと。だから、誰も人口減少問題を真剣に考えず、ついには最後の地球人が残されるのである。

星新一の作品が、未来を鋭く予見していたという解説、評論は数多くある。今回、「ボッコちゃん」を読んでみて、その予見性の高さ、確かさにはただただ驚愕するばかりでだった。それはまるで、現実社会が星新一の描いた世界を実現するために発展してきたのではないかと考えさせられてしまうくらいだ。

生活維持省」に描かれるような世界は、もちろん現実的ではないけれど、増え続ける人口とそれに伴う各種の問題は、リアルに存在する。しかし、現代の日本人、いや世界中の人々はこの問題をあまり真剣には論じていない。それは、「最後の地球人」の冒頭で描かれる状況と酷似している。となれば、将来の地球には悲劇的な末路が待っているのではないかと不安にもなっていく。

そう考えてみると、星新一の作品を定期的に読み返してみるのも良いことなのではないかという気がしているのである。