ガタガタ書評ブログ

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引き裂かれた中華の歴史に翻弄された人々の物語-東山彰良「流」

台湾と中国の間には、根深い国家間の対立が存在する。いや、“国家間”という言い振りは間違っているのだろう。なぜなら、中国は台湾を独立国家として認めてはいないし、国際社会においても台湾を独立した主権国家として正式に認めている国は22ヶ国しかなく、日本もアメリカも、国家としては正式に承認していない(国家に相当する扱いとしている)。

流

 
流

 

前置きが長くなるが、もう少しお付き合い頂きたい。

そもそも中国は、現在の台湾が名乗っている「中華民国」として戦後に国際連合の設立国でもあった。それが、中国共産党中国国民党との対立から始まる内戦によって、国民党(=中華民国)の実効支配地域が縮小していき、中国共産党が1949年に「中華人民共和国」を建てたことで、中国の分断が決定的なものとなる。

東山彰良「流」は、この中国共産党中国国民党との対立、内戦を物語のバックボーンとして、ひとつの家族に起きた事件を描いている。

主人公の私(秋生)が、蒋介石の死を知るところから物語は始まる。彼の祖父・葉尊麟は、かつての内戦で中国国民党に加担して戦った過去がある。その祖父が、蒋介石が死んだその年に、何者かによって殺される。なぜ、祖父は殺されたのか。誰が、祖父を殺したのか。秋生は、祖父が生きてきた内戦の時代に、彼が行ってきた数々の行為と、内戦によって生じた大陸と台湾との根深い対立が事件の根底にあり、ひとつの結論にたどり着く。

本書は、大枠で見ればミステリーなのかもしれない。しかし、謎解きとか犯人探しがストーリーの中心に位置している訳ではなく、主人公であるわたし(秋生)の成長の物語としての色合いが強い。若さに任せた直情的な行動や悪い友人たちとの腐れ縁。ひとつ年上の幼なじみとの恋愛と失恋。友情、恋愛と学業との両立。そして家庭事情。そういった様々な要素が絡み合い、その絡み合った環境の中で秋生は、人間として成長をし続ける。

本書は、エンターテインメント小説である。しかし、その主題は重い。私が本書を読んで、このレビューを書きながら思っているのは、やはり先の戦争がもたらしたその後の負の影響である。

本書が描いている中国の内戦も、朝鮮で勃発した南北間の対立も、元をたどれば抗日戦争終結後の国家存立における対立があると思う。抗日戦争を戦っていたときは、日本というひとつの敵に対して、国民が一致団結して抗い、独立を賭けて戦い続けていた。日本が降伏し、戦争が終結した後、中国も朝鮮も自由と独立を得て、自らの依って立つ新しい国を造ることになるが、その中では、それぞれの思惑や権益の問題などから、同じ人民同士が対立を深めることになり、そして内戦へと発展していく。

エンタメ小説をそこまで深く重いテーマで考えることが、正しい小説の読み方、楽しみ方ではないかもしれない。だが、本書にはそういう歴史的な面を考えさせる力があるように思う。

今、中国や韓国が抗日を強く推し進めている背景には、未だ不安定な国内での対立、不平の沈静化もある。私たちは、ただ単純に中国や韓国の抗日的姿勢を批判するのではなく、彼らの歴史的背景と現在の国内情勢も意識して見ていかないといけないのかもしれない。