本当なら映画をキチンと観てからとレビューすべきなのだろうけれど、なかなか映画館に行く時間の取れないまま締め切りを迎えそうなので、涙を飲んで書籍のみでレビューします。
何の話かっていうと、園子温「ラブ&ピース」の話です。
本書「ラブ&ピース」は、映画の世界を監督である園子温自らが描き出した絵本であり、映画「ラブ&ピース」が生まれるまでの、園子温という映画監督の物語です。
まず、映画のストーリーを簡単に。とは言っても、冒頭に書いたように映画は未見なので、この内容は、「ラブ&ピース」公式サイトのストーリー紹介をベースに書いたものです。
長谷川博己演ずる鈴木良一は、楽器の部品会社で働くサラリーマン。昔はロックミュージシャンを目指していたこともあったが、現在はうだつのあがらない日々を過ごしている。麻生久美子演ずる職場の同僚寺島裕子が好きなのだけど、小心者なので話しかけることができない。そんな良一が、ある日デパートの屋上で一匹のミドリガメ・ピカドンと出会ったことで、彼の人生が再び回り始める。そこから始まる怒涛のストーリー。西田敏行演ずる謎の老人、言葉を得たおもちゃたちの住む地下世界、そして、良一はロックスターとして変貌を遂げるのだが・・・
本書「ラブ&ピース」には、映画の世界をミドリガメ・ピカドンの視点で描いた絵本ストーリーと、「鈴木良一の闇」と題された、園子温監督自身のストーリーが記された、ちょっと長めの後書きとも、短編小説ともとれる物語が収められています。
「ラブ&ピース」は、園子温監督の大胆であり、繊細であり、個性的なタッチの、イラストと一部手書き文字で物語が描き出されています。表紙に赤い文字でドンッと書かれた「ラブ&ピース」の文字には、書き殴ったかのような暴力的な迫力があり、時に原色を派手に使い、時にモノクロームな落ち着きを見せ、時に抽象的に、時に豪快に、時に寂しげに描かれた一枚一枚のイラストが、それぞれに読み手の感性を抉るような気がします。
「鈴木良一の闇」では、「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリを受賞して注目を集めていたものの、まだまだ商業ベースの映画を自由に撮れる立場にはなかった園子温監督自身が、悶々とする日々を過ごしながら、「ラブ&ピース」の原型となるシナリオを書いていた頃の話が記されています。映画が好きで、映画が撮りたくてたまらない若き映画監督が過ごす日々は、「ラブ&ピース」でロックミュージシャンの夢に悶々としながらもうだつのあがらない日々を過ごす鈴木良一と重なります。
「鈴木良一とは、園子温である」
「ラブ&ピース」は、鈴木良一の物語であるが、それは、園子温監督自身の物語なのだと思うのです。荒唐無稽な怪獣映画でありながら、ちょっとしたきっかけで大きく夢を叶える男の成長の物語なのだと思うのです。
このレビューを書きながら、私は映画「ラブ&ピース」が観たくてたまらなくなっています。