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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「2001年宇宙の旅」、「未知との遭遇」、そこには“神”があった-ハリ・クンズル「民のいない神」

砂漠には何でもある。と同時に、何もない。砂漠は神だ。しかし、そこに民はいない。

扉に引用されたバルザック「砂漠の情熱」の一節が、本書「民のいない神」のタイトルの元である。

民のいない神 (エクス・リブリス)

民のいない神 (エクス・リブリス)

 

ハリ・クンズル「民のいない神」は、2008年に、ジャズとリサの夫婦とその息子ラージの家族に起きる不可思議な事件を軸に、1947年、1778年、1958年、1969年、1920年、1970年、1871年、1971年、1942年、2009年、1775年と様々な時代を行き来する。

すべての中心はあるのは、カリフォルニア州南部モハヴェ砂漠にそびえる巨大な3本の尖塔上の岩山-ピナルク・ロックだ。

ジャズとリサの息子ラージは、自閉症を抱え、言葉を持たず感情の抑制が利かない。ジャズもリサも、息子の世話に疲れ果てていて、特にリサは子育ての負担をその一身に引き受けることで、精神的にも疲弊している。一家は、旅行でモハヴェ砂漠を訪れる。そして、ピナクル・ロックへ向かう。そこで事件は起きる。二人がわずかに目を離している間に、ラージが忽然と姿を消したのだ。懸命の捜索も虚しく、ラージの行方は完全に消滅してしまった。

そこから、ジャズとリサには様々なことが怒涛のように押し寄せる。最初は同情的であった世間は、次第に二人がラージを殺したのでは、という疑念に変わり、次第次第に二人を追い詰めていく。

モハヴェ砂漠とそこにそびえ立つ神秘的であり象徴的な岩山ピナクル・ロック。そこには、常にスピリチュアルな雰囲気がつきまとう。本書に描かれる様々な時代の出来事も、ピナクル・ロックを中心にした謎の失踪事件やUFOカルト集団の事件など、相当にスピリチュアルである。それでも、“トンデモ”系のサブカルチャー的ストーリーからは一線を画しているのは、すべての出来事が不自然でなく、相互に関連しあっているからかもしれない。

「砂漠の只中に象徴的に存在する巨大な岩山」という神秘性は、「2001年宇宙の旅」のモノリスや「未知との遭遇」のデビルズ・タワーを想起させる。また、ラージを始めとする各時代での不可思議な失踪事件とその後の顛末も、「未知との遭遇」での一場面を思い起こさせる。

本書は、必ずしもSFジャンルに分類されるタイプの作品ではないけれど。そうしたSF的要素やスピリチュアルな世界観を作品世界に持ち込むことで、作品自体が広がりを見せているように感じられる。バランス感覚も丁度よいという印象を受けた。

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

 
2001年宇宙の旅〔決定版〕

2001年宇宙の旅〔決定版〕