ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

あの日、三島由紀夫は自らの命を賭して決起を訴えた。しかし、時代は彼を必要とはしなかった-中川右介「昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃」

昭和45年(1970年)11月25日は、作家三島由紀夫が、自らが結成した「楯の会」の同志とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、総監を人質にして立てこもった上、バルコニーで自衛隊に決起を促す演説を行った後に割腹自殺を遂げた日である。今年(2015年)は、三島事件から45周年にあたる。

右翼的思想にとらわれた憂国の作家が、思想を同じくする仲間と「楯の会」を組織してクーデターを企てた挙句、それに失敗して自決したという事件。それは、当時の関係者や三島と懇意にしていた作家、評論家仲間にはかなりの衝撃を与えた。

本書は、三島事件に直面した人々が、その事件をどのようにとらえ、どのように考え、どのように行動したのかを集めたノンフィクションである。

三島事件が発生した11月25日を中心に、その前後における状況が集められた本書において、三島由紀夫本人は主役にはなっていない。三島は語られる立場、報道される立場であり、自らが語る立場にはないのである。様々な人が語る三島や三島事件を集めることで、三島と三島事件の真意を見出そうというのが、本書の目的である。

実に様々な人物が登場する。

当時、三島と共に文壇で活躍していた石原慎太郎大江健三郎川端康成などの作家たち。

当時の政治の中枢にいた佐藤栄作中曽根康弘

まだ学生であったり、社会人ではあったが一介のサラリーマンに過ぎなかった椎名誠浅田次郎野田秀樹

彼らが事件をどこで知り、どのような衝撃を受け、どのような行動をとり、事件後にどのような考えを持つに至ったのかを、各人が残したエッセイ、小説、戯曲などの記述やテレビ、ラジオ、雑誌などで発表されたコメントによって明らかにしていく。

様々な記録を読んでいくと、三島と三島事件がある意味好意的にとられていた面も見えてくる。一線で活躍する人たちだけではなく、市井の人々も事件後には三島の本を買い求め、職場で、学校で、飲みの席で、事件のことを話題にした。良くも悪くも三島事件は、世間に強烈なインパクトを残したことになる。

著者も書いているように、もし平成の今、三島事件が起きていたら、人々はこれほどまでに事件に熱狂し、陶酔し、三島作品に人気が殺到することはないだろう。三島の書籍は書店から姿を消すだろうし、三島由紀夫を神格化するような記事が書かれることはほとんど考えられない。戦後25年が経ち、経済的にも復旧して、次第に人々の不満が鬱積し始めていた昭和45年に起きたからこそ、三島事件は、ある意味で受け入れられたのではないだろうか。

三島事件から45年目の2015年。自衛隊が海外で自由に活動することができるようにするための法案が国会で審議され、成立する可能性が現実味を帯びてきている。もし、自衛隊集団的自衛権を巡る今の日本の状況を三島由紀夫が目の当たりにしたら、やはり彼は「三島事件」を起こしただろうか。そして、彼の行動を我々日本人は受け入れられただろうか。そんな“if”を考えたくなってしまう。

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