タカラ~ムの本棚

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ドラマ「SHERLOCK」の世界観で描かれるホームズ・パスティーシュ短篇集-北原尚彦「ジョン、全裸連盟へ行く」

2010年7月に、英BBCで放送がスタートした「SHERLOCK」は、かの有名な名探偵シャーロック・ホームズを現代に蘇らせた。主役のホームズに扮したのはベネディクト・カンバーバッチで、彼はこの作品により人気俳優となった。

ジョン、全裸連盟へ行く

ジョン、全裸連盟へ行く

 

北原尚彦「ジョン、全裸連盟へ行く」は、「SHERLOCK」の世界観で描かれるホームズ・パスティーシュ短篇集である。著者は、生粋のシャーロキアンであり、本書と並行する形で、他2作のホームズ・パスティーシュ小説(「シャーロック・ホームズの蒐集」、「ホームズ連盟の事件簿」)を発表している。

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本書は、英BBCドラマ版のホームズが題材となっているため、ドラマ版と同様に現代の電子機器、ツールが物語のポイントとなる。ホームズもワトソンも、依頼人も犯人もスコットランド・ヤードの刑事たちも、スマートフォンで情報を収集するし、ワトソンがホームズの物語を発表する媒体は、ネット上のブログである。

BBCドラマ「SHERLOCK」を観た時、現代の様々な最新機器やツールを使用していても、シャーロック・ホームズという特異なキャラクターの造形が、オリジナル版の雰囲気を壊すことなく、何も違和感がなく存在できていることに驚いた。それは、およそ100年以上も前に書かれたシャーロック・ホームズというキャラクターが、時代性に固執しない柔軟なキャラクターであることを示している。フレキシブルという見方もできるし、変態性は時代を超越するという見方もできる。

本書は、ドラマの雰囲気を実にうまく醸し出している。そのうえ、ラストに収められた「ジョンとまだらの綱」は、そのタイトルからわかるように、オリジナル版でもよく知られた「まだらの紐」のパロディとなっている。(ここは「パスティーシュ」ではなく「パロディ」が適していると思う)

また、時代性という意味では、社会環境についても現代社会を色濃く反映しているように思う。表題作である「ジョン、全裸連盟へ行く」や、美人モデルのストーカー事件とその顛末を描く「ジョンと美人サイクリスト」は、ジェンダーの問題を背景として描いている。かつては、男性が主流であったミステリーの登場人物たちが、男女平等、機会均等、というわけではないだろうが、女性の活躍(あらゆる意味で)が描かれるようになっている。

本書が、「SHERLOCK」のパスティーシュとして高いクオリティを保っているとすれば、著者の手腕によるところが大きいというところもあるが、それと同等レベルで、ドラマ版「SHERLOCK」のクオリティの高さもある。そして、「SHERLOCK」が高いクオリティを提供できているのは、やはりオリジナル版のホームズ・シリーズのクオリティが高いからなのだろう。

改めて、コナン・ドイルが生み出したキャラクター、シャーロック・ホームズが突出したキャラクターであったのだと認識した。