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第6回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションに行ってきた!

「今、翻訳小説がアツイ!」

という訳でもないのだけれど、4月19日に開催された第1回日本翻訳大賞の余韻も冷めやらぬ4月25日の土曜日。今度は、東京の大田区蒲田で翻訳ミステリーに関するイベントが開催された。

第6回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション

がそれだ。今回、はじめてイベントに参加してきたので、その様子をレポートします!

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■翻訳ミステリー大賞って?
そもそも、「翻訳ミステリー大賞ってなに?」という方もおられると思う。

翻訳ミステリー大賞は、翻訳ミステリーの面白さを多くの方に伝えたいという思いから、ミステリー翻訳の第一人者である小鷹信光さん、深町眞理子さん、白石朗さん、越前敏弥さん、田口俊樹さんが発起人となって、その年のベストとなる翻訳ミステリーを、現役で活躍されている翻訳家による投票で決定するというものです。

2009年にWebサイト「翻訳ミステリー大賞シンジケート」がオープンしました。サイトでは、翻訳ミステリーに関連する様々な話題が、翻訳家、書評家、編集者の手で執筆され、公開されています。

翻訳ミステリー大賞シンジケート http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/

■過去の受賞作
翻訳ミステリー大賞は、今年で第6回。過去5回の大賞受賞作は以下の通りである。

・第1回大賞受賞作 「犬の力」ドン・ウィンズロウ東江一紀訳(角川文庫)
・第2回大賞受賞作 「古書の来歴」ジェラルディン・ブルックス/森嶋マリ訳(RHブックス・プラス)
・第3回大賞受賞作 「忘れられた花園」ケイト・モートン/青木純子訳(東京創元社
・第4回大賞受賞作 「無罪」スコット・トゥロー/二宮馨訳(文藝春秋
・第5回大賞受賞作 「11/23/63」スティーヴン・キング白石朗訳(文藝春秋

犬の力 上 (角川文庫)

犬の力 上 (角川文庫)

 
犬の力 下 (角川文庫)

犬の力 下 (角川文庫)

 
古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

 
古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)

 
忘れられた花園 上

忘れられた花園 上

 
忘れられた花園 下

忘れられた花園 下

 
無罪 INNOCENT 上 (文春文庫 ト)

無罪 INNOCENT 上 (文春文庫 ト)

 
無罪 INNOCENT 下 (文春文庫 ト)

無罪 INNOCENT 下 (文春文庫 ト)

 
11/22/63 上

11/22/63 上

 
11/22/63 下

11/22/63 下

 

■当日の模様
4月25日(土)は、朝から晴れて暑くなる予感のする日だった。第6回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションに初めて参加する私は、JR蒲田駅から会場の大田区産業プラザPiOまでが案外遠いことでちょっと焦っていた。

私が今回、第6回目にして初めて参加したのは、翻訳ミステリー大賞授賞式の日程や会場が昨年までの、「旅館で泊りがけで行う」イベントから、「公共のホールで日帰りで行う」イベントに変更されたからだ。泊りのイベントというのも興味はあったのだが、根っから人見知りな私としては、そういう閉鎖的な空間に耐えられるか不安で、参加を決断できなかったのだ。

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さて、無事に会場入りし、Twitterのハンドルネームを記入した名札を胸にして、イベントの開始を待つ。そこかしこで、常連さんや読書会仲間と思しき人たちが、久しぶりの邂逅を喜び合っているのが見える。ああいう仲間の輪に入りたいなぁ、と思いつつも、イベント初参加で読書会にも行ったことのない私は、ただただ見ているだけで時間を過ごす。

やがて、主催者を代表して書評家の杉江松恋さんが舞台に立ち、イベント中の諸注意を説明する。写真撮影OKと聞き、おもわず「へぇ~」となる。ある意味で太っ腹だ。そして、何やらなし崩しのようにイベントがスタートしていた。うん、手作り感いっぱいだわ。

1.「書評七福神」でふりかえる翻訳ミステリーこの1年
最初のプログラムは、翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイト上で月1回連載されている「書評七福神の今月の一冊」から、七福神メンバーである北上次郎さん、吉野仁さん、川出正樹さん、杉江松恋さんによる2014年の七福神振り返り。自分たちがこの1年間(2013年11月~2014年10月)に取り上げたその月のおススメ作品を振り返り、改めてその面白さを語ろうという企画だ。

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この企画の主役はなんといっても御大・北上次郎さんである。北上さんといえば、「本の雑誌」を創刊した人で書評家としても重鎮なのだが、最近では「自分が読んだ本のことを覚えていない人」というイメージがすっかり定着している。

今回も、そんな北上さんの「覚えてない」発言が会場の笑いを生んでいた。例えば、2013年11月の七福神を振り返った時。

 杉江「2013年11月に「三秒間の死角」をあげてますけど、どういう
   ところがポイントですか?」
 北上「全然覚えてないんだよなぁ」(会場爆笑)

という会話が随所に現れる。むしろ、「地上最後の刑事」を紹介したことを覚えていたときには、会場から驚嘆の声があがったような気がしたくらいだ。

こんな感じで、若手チーム(なのかな?)の川出さんと杉江さんが話を進め、そこに北上さんが口を挟み、北上さんがうろ覚えの情報は吉野さんが補完する。そんな関係性ができあがっていたように思えた。

七福神のコーナーで盛り上がった場面は、今回の大賞候補にもなっている「その女アレックス」に関する、ドイツでの評判について、マライ・メントラインさんから報告があったところだ。

「その女アレックス」は、2014年の翻訳ミステリーでは、もっとも評価を集めた作品である。いったいいくつの冠を受けたかと言えば、

週刊文春ミステリーベスト10 第1位
このミステリーがすごい!2015年版 第1位
・IN☆POKET文庫翻訳ミステリーベスト10 第1位
・ミステリが読みたい2015年版 第1位
本屋大賞翻訳小説部門 第1位
・仏リーヴル・ド・ボッシュ読者大賞受賞
・英国推理作家協会インターナショナル・ダガー賞受賞

と実に七冠。すでに30万部くらい売れているという話も。

そんな大評判の「アレックス」だが、ドイツではあまり評価は高くなく、Amazonレビューでも低評価で内容についてもかなり辛辣に批評されているとのこと。これについてマライさんは、「アレックス」の文章が比喩的表現などを使っていることで、ドイツ人にはそのウィットな部分があまり理解できなかったのではないかとコメントした。

マライさんによれば、ドイツ人としては文章に重厚長大さを求めるようで、「アレックス」のように短い言葉を繋いでいくスタイルの文章は、読みにくく受けいれにくいらしい。私は、ドイツ文学に精通している訳ではないが、ドイツという国をイメージしてみると、なるほど実直で堅苦しい印象があるから、必然的に小説の文章、文体も重厚になるのかもしれない。

2.翻訳ミステリー大賞リアルタイム開票&贈賞式
休憩をはさんで本日のメインイベントである、第6回翻訳ミステリー大賞の投票結果開票である。

翻訳ミステリー大賞では、事前に主催者側で開票を行った結果で、授賞作を発表し贈賞するという流れではなく、会場でリアルタイムに開票していくシステムとなっている。候補作に、1票、また1票と票が投じられ、会場はもちろんのこと、何より候補作の訳者、編集者にとっては、1票ごとに喜んだりため息をついたりと、実に会場全体で盛り上がれる。

第6回大賞の最終候補作は以下の5作品だ。

・「ゴーストマン時限紙幣」ロジャー・ホップス/田口俊樹訳(文藝春秋
・「その女アレックス」ピエール・ルメートル/橘明美訳(文藝春秋
・「秘密」ケイト・モートン/青木純子訳(東京創元社
・「もう年はとれない」ダニエル・フリードマン/野口百合子訳(東京創元社
・「容疑者」ロバート・クレイス/高橋恭美子訳(東京創元社

司会進行役が、1票ずつ投票を読み上げていく。まず票を集めたのは、「容疑者」、さらに「もう年はとれない」が続き、またさらに「秘密」にも票が集まる。

意外なことに、七冠の「アレックス」の票は伸びず、「ゴーストマン」に至っては1票も入らない状況。こうして開票の前半戦を終えた中間結果では、

・「ゴーストマン時限紙幣」 0票
・「その女アレックス」   3票
・「秘密」        10票
・「もう年はとれない」  12票
・「容疑者」       11票

となり、「秘密」、「もう年」、「容疑者」の三つ巴の様相を呈していた。そして開票後半戦が始まる。実は、誰もがその瞬間を待っていた。

「ゴーストマン時限紙幣!」

司会役が高らかに読み上げた瞬間、会場からは拍手と歓声が巻き起こった。ついに「ゴーストマン」が1票を獲得したのだ。「もしかして、最後まで1票も入らないんじゃないか。。。」と会場の誰もがそんなことを考えていたときだっただけに、この1票は会場を大いに盛り立てたのである。その後、2票目、3票目までは入るたびに拍手と歓声があがったが、4票目でみな冷静になり、5票目は普通にやり過ごされていた。(最終得票は5票である)

「次が最後の投票です」

開票は進み、得票は「秘密」と「もう年は取れない」の一騎打ちとなっていた。ラス前の段階で、

・「秘密」       21票
・「もう年はとれない」 20票

とその差は1票。ラスト1票が「もう年はとれない」に入れば、同点で2作が大賞となるのだろうか。運命のラスト1票が読み上げられる。

「秘密」

こうして、第6回翻訳ミステリー大賞は、22票を集めたケイト・モートン著/青木純子訳「秘密」に授賞されることが決定した。最終得票結果は、

・「ゴーストマン時限紙幣」  5票
・「その女アレックス」   11票
・「秘密」         22票
・「もう年はとれない」   20票
・「容疑者」        14票

である。

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大賞決定を受けて授賞式の準備に入った。「事務局メンバーの中で一番字がキレイ」という理由で、翻訳家の白石朗さんが、賞状に受賞者の名前を書き入れる。その間に、舞台上にはマイク等が準備される。

無事準備も整い、受賞作となった「秘密」の翻訳を担当された青木純子さんと、担当編集者である東京創元社の井垣さんが壇上へ。賞状を授与するのは、「ゴーストマン時限紙幣」の翻訳者でもあるシンジケート代表の田口俊樹さん。副賞の目録は、前回の大賞受賞作「11/23/63」の翻訳者である白石朗さんによって行われた。

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ケイト・モートン/青木純子のコンビによる翻訳ミステリー大賞の受賞は、第3回の「忘れられた花園」に続いて2度目となり、これは初の快挙。思わず興奮してしまったのか、受賞挨拶で青木さんが、

「前回は、『秘密の花園』で受賞させていただき。。。」

と、2つの作品をごっちゃにしてしまうハプニングもあって、会場は和やかなムードに。受賞挨拶の後は、写真撮影会となり、青木さんと井垣さんが開票結果を示したホワイトボードの前でポーズをとった。

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3.翻訳ミステリー大賞読者賞の発表&贈賞式
大賞の発表&授賞式に続いて、全国の翻訳ミステリー読者の投票によって選ばれる読者賞の発表と贈賞が行われた。

翻訳ミステリー大賞シンジケートでは、全国各地で有志による読書会が開催されていて、活発に活動している。その読書会の世話人の方々が中心となってできたのが読者賞だ。

横浜、名古屋、福岡の各読書会を運営されている世話人の方々を司会進行として、全国の読者からの投票で決定したベスト10が発表された。10位から4位は以下の通り。

10位 「ラバーネッカー」
9位 「ピルグリム」
8位 「ヴァイオリン職人の探究と推理」
7位 「火星の人」
6位 「ハリー・クバート事件」
5位 「養鶏場の殺人/火口箱」
4位 「もう年はとれない」

いずれも、2014年を代表すると言ってよい作品ばかりが並んだ。この時点で、「秘密」と大賞を争った「もう年はとれない」が4位にランクイン。もっと上のランクもあるかと思った参加者も多かったのか、4位が発表されたときは少しどよめいた。

しかし、まだまだ話題作が残っている。大賞を受賞した「秘密」は何位に入るのか。2014年の話題を総なめにしていた七冠小説「その女、アレックス」もある。最終候補に残り、犬バカの心を熱くつかんだ「容疑者」も捨てがたい。いやいや、これまで名前のあがっていなかった意外な作品がランクインする可能性もある。もしかしたら、杉江松恋超絶プッシュのニック・ハーカウェイ「世界が終ってしまったあとの世界で」だって、可能性がない訳ではない。

会場がざわつく中、まず第3位が発表された。

第3位 「その女、アレックス」

おぉ!翻訳ミステリー大賞では、「アレックス」は、大賞も読者賞も一歩届かずという結果に!

続いて、第2位の発表。

第2位 「容疑者」

うぉー!ということは第1位は!

第1位 「秘密」

会場のヴォルテージが一気にあがる。なんとなんと、「秘密」が大賞と読者賞をダブル受賞するという快挙を成し遂げたのだ。これは、過去の翻訳ミステリー大賞の歴史で初めての快挙である。

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初めて参加した翻訳ミステリー大賞授賞式で、歴史的瞬間に立ち会えたのは、なんという幸運だろう。いや、今回参加して本当に良かった。

4.フランス・ミステリー翻訳コンテスト授賞式
大賞、読者賞の発表、授賞式に続いては、「フランス・ミステリー翻訳コンテスト授賞式」が行われた。

これは、フランス語翻訳の第一人者である高野優さんが、自身が開催されているフランス語翻訳講座の生徒さんたちとともに、フランスの短編ミステリを発掘するプロジェクト〈フランス・ミステリ未訳短篇発掘プロジェクト〉で発掘され、生徒さんたちによって翻訳された作品約40編の優秀翻訳作品を選んで授賞するものである。

2014年は、「その女、アレックス」が七冠を達成するなど、フランス語ミステリにも注目すべき作品があることを知るきっかけとなる年だった。それでも、まだまだ我々にとってフランスミステリは馴染みが薄い。

フランスのミステリといってパッと思い浮かぶのは、やはり「アルセーヌ・ルパン」のシリーズだろう。その他、コアなミステリファンならば、ポール・アルテという作家もあがるかもしれない。

だが、それ以外の作品となるとすぐには思い浮かぶ作家、作品がない。これは、私がフランス・ミステリをあまり知らないこともあるのだけれど、多くのミステリーファンの中でも、ほとんど同じような状況にあるのではないだろうか。

〈フランス・ミステリ未訳短篇発掘プロジェクト〉は、まだ見知らぬフランスミステリの傑作を日本に紹介する貴重な取り組みだと思う。なお、このプロジェクトで発掘された作品の一部は、2015年3月に発売された「ミステリ・マガジン5月号」に掲載されているとのこと。また、フランスのノワール系小説に造詣の深い書評家の吉野仁さんの編纂によって、作品集も今後計画されているとのことなので、楽しみである。

ミステリマガジン 2015年 05 月号 [雑誌]
 

5.出版社対抗ビブリオバトル

大賞、読者賞の発表、授賞式が終わり、しばしの休憩をはさんで行われたのが、「出版社対抗ビブリオバトル」である。

今更「ビブリオバトル」についての説明は不要だろう。簡単にいえば、自分が「これだ!」とオススメしたい本について、決められた時間内でプレゼンを行い、そのプレゼンで「その本読みたい!」という観客の指示を
一番多く集めた者が優勝というものだ。

今回、ビブリオバトルに参戦する出版社と推薦作品は以下の通り。

小学館   「バタフライ・エフェクト
集英社   「ゲルマニア
東京創元社 「探偵は壊れた街で」
早川書房  「エンジェルメイカー」
文藝春秋  「ドクター・スリープ」

バタフライ・エフェクト (小学館文庫 ア)

バタフライ・エフェクト (小学館文庫 ア)

 
探偵は壊れた街で (創元推理文庫)

探偵は壊れた街で (創元推理文庫)

 
ドクター・スリープ 下

ドクター・スリープ 下

 
ドクター・スリープ 上

ドクター・スリープ 上

 

このうち、早川書房の編集者がまだ会場に到着していないことが判明。ひとまず、残りの4社でバトルがスタートした。

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じゃんけんによって決まった順番で、まずは小学館バタフライ・エフェクト」のプレゼンがスタート。5分間という制限の中で、作品の紹介を進めていき、残り1分となったところで翻訳を担当したヘレンハルメ美穂さんからのメッセージが読み上げられることになった。しかし、このメッセージの思いのほか長い。時間は無情に過ぎ去り、結局最後までメッセージが読まれることなく質問タイムへ。そこで、観客のひとりから「メッセージの続きを」との質問があり、無事に最後までメッセージは読み上げられた。

続いては、文藝春秋から「ドクター・スリープ」のプレゼン。ある意味、今回のビブリオバトルでは、この作品が一番の目玉作品なのではないだろうか。だって、本作はあのスティーヴン・キングの新作。しかも、誰もが知っているに違いない超有名作品「シャイニング」の続編なのだ。キングの小説版「シャイニング」を好きな人も、キューブリック監督/ジャック・ニコルソン主演の映画版「シャイニング」にはまった人も、どちらのファンにもたまらない作品になっていると担当者は熱弁をふるう。質問コーナーでは、“キング作品=長い、分厚い”というイメージからか、本作のボリュームについての質問がとんでいた。

3番目に立ったのは小学館。作品は「ゲルマニア」である。個人的には、プレゼンを聞く前から、この作品が一番気になっていた。ナチス・ドイツが台頭した時代に、ユダヤ人の元刑事がナチス親衛隊の依頼によりある事件の捜査に関わっていく物語。その舞台設定、人物設定だけでも興味をそそられる。

4番目は、東京創元社の「探偵は壊れた街で」。巨大ハリケーンの被害も生々しいニューオーリンズを舞台に、女性探偵が活躍するハードボイルド小説である。今回、各社が紹介した作品の中では、唯一既刊の作品だった。

ここまで4社を終わって、結局早川書房はやんごとなき理由で不参加が決定。急遽、代役として杉江さんが壇上にあがった。なぜ、杉江さんが代役となったのか。それは、紹介する本が、杉江松恋の超偏愛作家ニック・ハーカウェイの新刊「エンジェルメイカー」だからだ。壇上にあがった杉江さんは、ここでも熱いニック・ハーカウェイ愛を爆発させる。七福神からはじまった熱いハーカウェイ愛にやられて、「世界がおわってしまったあとの世界で」も「エンジェルメイカー」の読みたくなってしまったのは、私だけではないはずだ。

さて、こうして4社+杉江松恋のプレゼンが終了。会場のお客さんの挙手によって優勝者が決定した。各社の得票結果は、

小学館  「バタフライ・エフェクト」 23票
文藝春秋 「ドクター・スリープ」   13票
集英社  「ゲルマニア」       45票
東京創元社「探偵は壊れた街で」    31票

となり、見事「ゲルマニア」をプレゼンした集英社が、出版社対抗ビブリオバトルを制したのだった。

ここまでで、第1部となる企画は終了。このあとは、約1時間半の休憩時間をはさみ、会場を3つの会議室に移しての小部屋企画となる。

・フランス・ミステリの小部屋
ネオ・ハードボイルド作家・探偵の月旦
・マライが行く!世界ミステリ見聞録~北欧:瑞典を読み解く!~

さて、どこかでお茶でもしながら、どの小部屋に入ろうか考えるとしよう。

6.小部屋企画「マライが行く!世界ミステリ見聞録~北欧:瑞典を読み解く!~」
京急蒲田駅前の飲食街になる串カツのお店で、角ハイボール2杯と串カツをいただきながら考えて、小部屋企画は、「マライが行く!世界ミステリ見聞録」を選んだ。

日本のミステリー小説にも造詣が深く、「ミステリ・マガジン」にも連載を持つドイツ人のマライ・メントラインさんが、スウェーデン大使館公使のアダム・イヴァさんをゲストに、ドイツで人気が高いスウェーデンのミステリーを、ヘニング・マンケルの「刑事ヴァランダー・シリーズ」所縁の地をマライさん夫婦が訪れたときの様子を紹介しつつ語るのが、この小部屋企画の主旨である。

ドイツでは、北欧、中でもスウェーデンのミステリーがよく読まれているとのこと。北欧ミステリーといえば、最近では日本でも数多く紹介され、よく読まれている。代表的なところでは、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム三部作」、アーナルデュル・インドリダソンの「湿地」、ユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Qシリーズ」、ヘニング・マンケル「刑事ヴァランダーシリーズ」などがある。

今回とりあげるのは、ヘニング・マンケルの「刑事ヴァランダーシリーズ」だ。作品の舞台となっているスウェーデン南部の街イースタを、マライさん夫婦が訪れた際の写真を見ながら、ドイツにおけるスウェーデンミステリの人気、ドイツ国産ミステリの状況、ドイツ人からスウェーデンの魅力などが、マライさん、アダムさん、若林さん、そしてマライさんの旦那さんの掛け合いによって語られていく。

「ヴァランダーシリーズ」の舞台となっているイースタは、ヨーロッパらしいイメージを醸し出した街だと感じた。石造りのやや無骨とも思える住宅。緑の少ない無機質な街並み。北欧の国らしく、太陽を求めて人々が日光浴をする。たとえ真冬であっても、太陽が顔を出せば、厚着をしてでも日光浴を楽しむのがスウェーデン人の気質なのだろうか。(ここで、アダムさんからは、同じスウェーデンでも地方によって違う、との解説があった)

興味深かったのは、ドイツでは書籍の出版とほぼ同時にオーディオブックが出版されるとのこと。オーディオブックというのは、日本ではあまり馴染みがないものだが、ドイツではかなりポピュラーなのだそうだ。ドライブを楽しみながらオーディオブックを楽しむとは、なんともオシャレな気がする。

小部屋企画は1時間の予定だったが、予定の時間を過ぎても話は尽きず、結局15分ほど予定時間をオーバーして終了した。

■イベントを終えて
こうして、12時30分~19時まで、途中休憩を挟みつつの約6時間近い長丁場のイベントは終了した。このあと、希望者は、懇親会にも参加されたようだが、私は帰宅の足の関係などあって、懇親会の方は欠席とさせていただいた。

今回はじめて参加したのだが、その長さを感じさせないくらいに楽しいイベントであった。当日のイベント運営に尽力された事務局のみなさんには、改めてお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。そして、当日会場に集まった翻訳ミステリーファンのみなさんの中に加わってイベントを楽しめたことをうれしく思います。

我々のような本好きにとって、翻訳家のみなさんの翻訳によって世界中の本が読めることは、実に幸せなことである。今年新しく創設された日本翻訳大賞、そしてこの翻訳ミステリー大賞と、翻訳にスポットライトを当てた文学賞が、世間的にも注目を浴びることで、日本の翻訳業界はさらに盛り上がるに違いない。我々読者は、その盛り上がりを萎えさせないように、これからもたくさんの翻訳小説を読み続けたい。

日本翻訳大賞、翻訳ミステリー大賞、どちらも今から来年の開催が楽しみで仕方がない。

秘密 上

秘密 上

 
秘密 下

秘密 下

 
秘密 上

秘密 上

 
秘密 下

秘密 下

 
もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)

 
もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)

 
容疑者 (創元推理文庫)

容疑者 (創元推理文庫)

 
容疑者

容疑者

 
その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 
その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 
ゴーストマン 時限紙幣

ゴーストマン 時限紙幣

 
ゴーストマン 時限紙幣 (文春e-book)

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