タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

毎日作り続けた父親と毎日食べ続けた息子の絆は美しい-渡辺俊美「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」

学生時代のランチは、学食でしたか? 購買でパン? それとも弁当持参?

私は、高校の3年間、母親の作ってくれた弁当を持参して通っていた。弁当箱はプラスティック製で蓋の縁にゴムのパッキンがはまっていて、両側に、アレなんていうんだろう、蓋を固定する用の「パチッ」となる抑え金具がついていた。弁当の中身は、目が覚めている間は常にお腹を空かせているような高校生男子のためと言って良い、ギッチギチに詰め込んだ白飯にごま塩と梅干し。おかずは、焼き肉、生姜焼き、鶏の唐揚げ、玉子焼き。ただただ茶色だった。え? 野菜が足りない? 確かにその通り。でもね、高校生男子に「バランスよく野菜を食べる」なんて発想はないのですよ。弁当に生野菜なんか入っていた日には、午後の授業はひたすらブルーになったものである。

自分語りはこの辺にして、本のレビューに入ろう。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

 

本書は、TOKYO No.1 SOUL SETのギター&ヴォーカル・渡辺俊美さんが、息子の登生(とうい)くんのために、高校生活の3年間に作った461個の弁当について、俊美さんの弁当作りに関する想い、息子との関係、息子への愛情、登生くんの父親への想いとともに記された、親子の記録である。

俊美さんが登生くんの弁当を作ることになったきっかけは、登生くんの「パパの弁当がいい」の言葉があったからだ。登生くんは、1浪して高校に入学している。彼は、何があっても高校3年間休まずに学校に通うと決め、俊美さんもそれに応えて毎日弁当を作ると決めた。

本書には、俊美さんが作った弁当の写真が多数掲載されている(もちろん、461個全部ではない)。初めて作った弁当は、ありきたりのプラスティック製弁当箱に、ごはんを詰め、おかずは冷凍のハンバーグを焼いたものと玉子焼きといったシンプルなもの。まだ弁当作りに不慣れな親父の試行錯誤が伺える。それが、回数を重ねていくと次第に進化していく。弁当箱もプラスティック製から和風の曲げわっぱになり、おかずも次第に手が込んでくる。

だが、俊美さんは必ずしも凝った弁当を作ろうとしていた訳ではない。短時間でできて、コストも低く抑えることを決めて、その範囲内で登生くんが喜んでくれる弁当を作ることを目標として作ってきた。息子が喜んで弁当を食べてくれることが、弁当作りのモチベーションだった。

今、実際に息子さんや娘さん、あるいは働く旦那さんのために毎日の弁当作りに追われているお母さんたちは、毎日の弁当作りのモチベーションをどう保っているのだろう。

まだ、子供が小さい頃、幼稚園のお弁当を作っていた頃は、お弁当を残さず食べて帰ってきた子供が、「お母さん、お弁当美味しかったよ!」と嬉しそうに報告してくれることが、何よりのモチベーションだったはずだ。それが、高校生ともなると、弁当なんて作ってくれて当たり前になってしまい、母親に感謝するどころか、「今日の弁当、なんで肉入れてくれなかったんだよ!」などと文句ばかり言うようになる(すいません、私のことです)。毎日、子供のことを気遣って、メニューに悩んで、栄養バランスに気を使い、彩りにも心配りをして作っても、文句を言われてしまうなんて、なんだか切ない。

2015年3月に、本書がドラマ化されて、NHK-BSで放送された。

461個の“ありがとう”~愛情弁当が育んだ父と子の絆~

俊美さんと登生くんの関係が、ドラマになるとより一層微笑ましく、感動的に描かれているように思った。俊美さんは、仕事と家庭の両立から、時に身体を壊したこともあり、また些細なことで親子が衝突することもあった。それでも、父は毎日弁当を作り、息子は毎日弁当を食べた。弁当を介して、二人は会話をし、いつだって繋がっていた。

高校生活最後の弁当。三段重の弁当箱に、俊美さんは登生くんの好きなおかずばかりをいっぱいに詰め込んだ。登生くんが弁当の蓋をあける場面では、思わずこみ上げてくるものがあった。そして、自分が高校生の時に毎日毎日弁当を作ってくれた母への感謝の気持ちが、今更になってこみ上げてきた。

今、母は七十代。今からでも遅くない、「あの時の弁当は、本当に美味しかったよ」と感謝の気持ちを伝えたい。