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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

熱烈応援!阿部和重。みんなもっと阿部ちゃんを読もう!-阿部和重「ピストルズ」

昨年(2014年)発売された多くの作品の中で、話題性という意味で盛り上がったのは、芥川賞作家・阿部和重本屋大賞作家・伊坂幸太郎の合作「キャプテンサンダーボルト」ではないだろうか。

読書系SNSサイト「読書メーター」では、「キャプテンサンダーボルト」に関する感想・レビューが1768件投稿されている(2015.03.22時点)。だが、私はその投稿の多くが伊坂幸太郎に言及し、阿部和重があまり注目されていないことに隔靴掻痒たる思いを抱いている。

曰く「伊坂幸太郎らしい作品」
曰く「阿部和重は読んだことがないのだが・・」

確かに、阿部和重という作家はメジャー作家であるとは言い切れない。でも、「グランド・フィナーレ」で芥川賞を受賞し、なにより、同じく芥川賞作家でもある川上未映子の旦那様なのである。メジャーになる要素は十分にもっているはずだ。

そこで、少なからず阿部作品を読んできた私として、阿部和重未読の皆さんに彼の作品をぜひ読んでほしいと、今回拙文を書くことにした。もし、この記事を読んで興味をもったならば、阿部和重作品に一度触れていただきたいと思うのである。

ピストルズ

ピストルズ

 
ピストルズ 上 (講談社文庫)

ピストルズ 上 (講談社文庫)

 
ピストルズ 下 (講談社文庫)

ピストルズ 下 (講談社文庫)

 
ピストルズ (上下セット)

ピストルズ (上下セット)

 

今回、私がオススメする阿部和重作品は、彼自身の出身地でもある山形県神町を舞台にした「シンセミア」の続編ともいえる作品「ピストルズ」である。タイトルの「ピストルズ」とは、拳銃を表すピストル“pistol”ではなく、花の雌しべを表す“pistil”である。

神町で書店を経営する石川は、ある事件のトラウマから無気力な生活を送っている。ある日、彼の書店に出版社の営業担当が現れ、1冊の本を紹介する。それは、三月(みづき)という作家によるライトノベル作品だった。三月は神町の出身者であり、モモ園を営む菖蒲家の娘だという。

菖蒲家は神町でも何かと謎の多い一家であった。興味を持った石川は、菖蒲家を訪ね三月の正体である菖蒲家の次女あおばと出会う。そして、彼女から菖蒲家に代々伝わるというある秘術について話を聞くことになる。それは、薬草を使った菖蒲家に一子相伝で継承される特殊な能力についての話だった。秘術の使い手である父水樹とその継承者である四女みずきとの壮絶な関係。父を超える能力を身に付けたみずきによって引き起こされた様々な事件。石川は、あおばから聞き出した菖蒲家の物語を記録していく。それは、いずれこの記憶が秘術の使い手であるみずきによって消されてしまうからに他ならなかった。

ジャンルとしてはSFといってよいのではないだろうか。伝奇小説という側面もあるかもしれない。神町という閉塞的な東北の町を舞台にして、薬草を用いた秘術の使い手たる菖蒲家の継承者たちが、その能力にある意味抗いながらも、与えられた使命を果たしていく。特殊な能力を身につけてしまったがゆえに周囲の人々と距離を置き、その存在を知られてしまった場合には秘術を用いてその記憶を消す。

非常に特殊な物語であり、独創的なストーリーである。菖蒲家の家の者が語る家族の歴史という形態をとっており、その物語を第三者である石川が克明に記録していく。しかし、その記録はいずれ消される運命にあり、記録者は果たしてこの記録に意味があるのかを常に自分に問いかけている部分がある。はじめは興味本位であったが次第に怖さを感じ、石川自身の家族までもがある事件を通じて菖蒲家と関係があったと知るに至り、困惑する。

本書には、過去の阿部作品に登場した登場人物がキーパーソン的な役割で登場する。菖蒲みずきに自殺を思いとどまらされた少女の兄は「ニッポニアニッポン」でトキを解放しようとした青年であるし、その少女に演劇の手ほどきをする沢見は、「グランドフィナーレ」の主人公である。このように他の作品と世界観がつながっているのも阿部作品の特徴であり、「キャプテンサンダーボルト」を合作した伊坂幸太郎との共通点でもある。伊坂作品も、作品間で物語がクロスし、別の作品の登場人物が他の作品にも登場する。「キャプテンサンダーボルト」で阿部和重伊坂幸太郎というふたりの作家が絶妙にシンクロした要因のひとつが、このふたりの共通性にあるのではないだろうか。

今回紹介した「ピストルズ」は、合作者である伊坂幸太郎が「一番好きな阿部和重作品」としてあげている作品であり、2010年に出た「ピストルズ」第3刷の帯には、伊坂幸太郎の推薦文が寄稿されているほどで、そのことが二人の作家を急接近させるきっかけにもなっている。「キャプテンサンダーボルト」という作品を生み出した二人の作家のコラボレーションは、決して話題作りのための企画ではなく、気の合う作家仲間の「何か面白いことをしたい」という欲求の結果なのである。

伊坂幸太郎ファンで「キャプテンサンダーボルト」を手に取った読書家の皆さん。もし、まだ阿部和重作品に触れていないのならば、伊坂さんもオススメする「ピストルズ」をぜひ読んでみてほしい。しがない一介の読書ブロガーのオススメでは食指が動かないという方も、伊坂さんがオススメするなら読んでみたいと思いますよね?