ガタガタ書評ブログ

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もし、火星にひとり取り残されたら、あなたは強く生きられますか?−アンディ・ウィアー「火星の人」

そこは、見渡すかぎりに赤茶けた土の平原が広がる不毛の土地。
そこに生きているのは、あなたたったひとりだけ。
食べ物も水も、さらには空気すらも限られた極限のサバイバル地帯で、助けが来る可能性はほんの僅か。
もしも、そんな状況に陥ってしまったら、あなたは希望を捨てずに強く生きていかれるだろうか。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

 
火星の人

火星の人

 

アンディ・ウィアー「火星の人」は、火星探査ミッション・アレス4のトラブルで不幸にも火星にひとり取り残されてしまったマーク・ワトニーが、極限の状況でも生きる希望を失わずに、彼がもつ数々の知識と経験をフル活用してサバイバルするSF小説である。2014年のSF小説でナンバーワンの評価を得た作品だ。

この小説は、古くは「ロビンソン・クルーソー」であり、映画「キャスト・アウェイ」でも題材となった“無人島でのサバイバル”を描いている。ただ、マークがサバイバル生活を送る場所が、地球から遠く離れた火星なのである。

火星探査のミッションに参加していたマークは、猛烈な砂嵐によってミッションが中止になり、火星を脱出する際に事故に遭った。仲間のクルーたちは懸命に彼を捜索したが、結局マークは死亡したとされ、彼を置いて火星を去ることになる。

しかし、マークは生き永らえ、そして、火星でひとり生きていかなければならなくなる。植物学者でありエンジニアでもある彼は、自らの知識と経験をフル活用して、生活環境を整え、じゃがいもを育て、次々と巻き起こるトラブルに対応していく。

様々な科学的、技術的な話が存分に盛り込まれた本書は、本質的にはガチガチのハードSFである。また、何もない極限空間で孤独と闘うマークには、本来かなりの悲愴感や絶望感が支配するはずだ。だが、本書にはそういうハードさや悲愴感は感じられない。むしろ、読んでいてワクワク感すら感じてしまうほど。

それは、本書がユーモアとウィットにあふれているからだ。火星にひとり取り残されてしまったマークは、日々の活動の様子をログに残すのだが、その口調には、自分が置かれている状況を楽しもうという様子が伺える。「絶望していても仕方がない。今を生きることを目一杯楽しんでやろう」という彼の気概がそこにはあるのだ。

マークは常にポジティブだ。通信設備が破壊されて、地球とは通信が完全に断絶した中で、彼はそれを解決する手段を見つけ出し、備蓄されている糧食では長く持たないからと、火星の土を植物の栽培に適した環境に作り上げ、じゃがいもの栽培にも成功する。

マークのように極限の状況に置かれたら、自分はポジティブに生きられるだろうか。
本書を読んで思ったのは、まさにそのことだった。マークと同じ状況になったら、闘わなければならないことがたくさんある。生きるための闘い。希望を失わないための闘い。様々なトラブルとの闘い。そして、なによりも孤独と闘わなければならない。人間は、孤独に弱い。私たちの周りには、常に人があふれていて、常に誰かの気配を感じられる。だが、マークにはそんなものは存在しない。彼を支配しているのは、闇よりも深く、静寂に輪をかけた静寂の世界なのだ。

こうして、様々なトラブルと闘い続け、生き続けたマークは、アメリカだけでなく世界を巻き込んだ一大救出プロジェクトによって地球への生還を果たす。その、ラストミッションともいえる救出プロジェクトの顛末も、手に汗握る展開で本書のクライマックスである。

圧倒的な迫力と詳細な科学知識に裏付けられた設定によって描かれたストーリーが、圧倒的なリーダビリティで迫ってくる本書は、確かに2014年で一番おもしろいSF小説なのかもしれない。