タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ある者は何かを求めて、ある者は何かから逃れて、人はこうして酒場に集う−パトリック・デウィット「みんなバーに帰る」

「酒場の風景とは、そこに集まる人たちの人生の縮図である」

そんな言葉があったようななかったような。
でも、人が酒を求めて酒場に足を向け、酒を呑んで、酒に呑まれる理由なんて、結局はそういうことなんだと思う。

みんなバーに帰る

みんなバーに帰る

 
みんなバーに帰る

みんなバーに帰る

 

日本では、「シスターズ・ブラザーズ」が先行して翻訳出版され、好評を博したパトリック・デウィットの作家デビュー作にあたるのが、本書「みんなバーに帰る」である。

“君”と呼びかけられる主人公は、常連の酔客が集うバーでバーテンとして働いている。結婚していて妻がいるが、必ずしも夫婦仲がよいというわけではないようだ。

バーに集まるのはほとんどが常連で、バーテンはそんな常連に、ときに店の酒を奢ってやったりしながら相手をしてやる。彼らは、普通の感覚からみれば十分に頭のネジの緩んだ連中で、とてもまともな生業をして暮らせているようには思えない。夜な夜なバーにやってきては、安酒かタダ酒をかっ喰らい、コカインやドラッグをきこしめしてはバッドトリップを繰り返す。

もっとも、そんなネジの緩んだ常連客以上にぶっとんでるヤツがいる。それが、バーテンである“君”だ。常連と一緒になって店の酒を喰らい、立派な酔っ払いとして1日を終える。そんな生活が続けば、いつしか身体はボロボロになり、妻との関係だってギクシャクしてくる。

本書は、全体で4部構成になっている。
第1部ではバーに集まる常連たちとバーテンとのエピソードが語られ、第2部では酒で身体をやられたバーテンが各地を放浪するロードノベルとなる。第3部では、バーテンが出会った女たちのエピソードとなり、第4部で再びバーテンに戻った“君”は、バーでのちょっとした犯罪行為に手を染める。

全編を通して、シラフなヤツはひとりも出てこない。バーテンも常連客も、いつだって酒に酔い、薬に酔い、コカインでラリっている。

「泥酔文学の金字塔!」

本書につけられたキャッチコピーだ。常に酔っ払っている登場人物たちと対等に渡り合うためには、読者もそれなりの痴態を晒さないといけないのかもしれない。