タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

今から思えばそんなに美味かった訳でもないのに、あの頃は食べたくて仕方がなかった−魚谷祐介「日本懐かし自販機大全」

子供の頃、デパートというほど大げさな店ではないが、ちょっと大きめのスーパーの屋上にゲームセンターがあって、よくそこで遊んだ。もちろん、目的はゲームなのだが、遊びまくってお腹がすいてくると軽食コーナーに向かうのが常だった。そこには、ハンバーガーやそば、うどんの自動販売機が缶ジュースの販売機と一緒に並んでいた。

日本懐かし自販機大全 (タツミムック)

日本懐かし自販機大全 (タツミムック)

 

本書は、今では見ることがほとんどできなくなった食べ物の自動販売機を求めて全国を歩いた著者のブログを書籍化したものである。

食べ物系の自動販売機には、麺類(うどん、そば、ラーメン)の販売機、ハンバーガーの販売機、トーストサンドの販売機などがあり、他にも弁当やカレーライスの販売機もある。

これらの食品自販機の多くは、街道沿いのオートドライブインなどに設置されていて、それなりの数が現在でも現役稼働中だ。本書でも、代表的なオートドライブインが紹介され、実際に自販機が設置されている様子やメンテナンスの様子などが紹介される。

本書を読んで驚いたのは、自販機の仕組みとメンテナンス(食品補充)の様子だ。麺類の自販機では、熱湯で麺と具材を温める仕組みなのだが、その湯切りの方法がメーカーによって異なっている。器を60度くらいに傾けて湯切りをする機械と器を回転させて遠心力で湯切りをする機械だ。前者は優しく湯切りをするので、具材が飛び散る事故は少ないが湯切りが甘くなって出汁が薄くなることがある。後者は湯切りは行われるが勢いで具材や麺が飛び散る危険性があり、業者によっては具材を麺の下に入れる対応をとっているという。

販売される食品の補充は設置している店の仕事になるのだが、業者が提供する既成品ではなく、その店独自のメニューがセッティングされているようだ。そばには生そばを使い、海老天が乗った天ぷらそばを提供する自販機もあったりする。自販機だからといって、いつも一緒というわけではないのだ。

ただ、各店で特色を出したり工夫をこらしているといっても、結局のところは作りおきを温めなおして提供する自動販売機である。味の程度というのは決まっている。だが、著者をはじめとして、その店に常連としてやってくるお客さんたちは、その味に十分満足しているようだ。それは、その料理の味だけではなく、今では稀少品となっている食品自販機に対する郷愁やその店の醸し出す雰囲気によって作り出されるのだろう。

食品自販機が作り出すチープなファストフードの世界を一度味わってみたくなる1冊である。