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クラレンス、その愛すべき存在-クレア・キップス「ある小さなスズメの記録〜人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」

これは、1羽のイエスズメの生涯の記録である。

ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

 

クレアは、家の前にまだ生まれたばかりと思しき1羽の雛鳥が落ちているのを見つける。彼女は、その雛鳥を家へと連れ帰り、出来る限りの手当を試みた。もちろん、彼女には雛鳥の命を救えるという確信があったわけではない。彼女自身も、その雛鳥が命を長らえることを期待していなかった。

だが、奇跡的に雛鳥は回復する。そして、クレアの家で共に暮らすことになる。そのイエスズメの雛鳥は、クラレンスと名付けられた。

クラレンスは、身体に少しの障碍をもつ鳥だった。しかし、彼はクレアの愛すべき息子となり、パートナーとなっていく。野生のイエスズメでは考えられないような芸(ピアノに合わせて歌ったり)を披露する茶目っ気をみせたりもする。ただ、気まぐれで恥ずかしがり屋の彼に人前で歌わせるのには、それなりの苦労はあったが。

折しも、クレアとクラレンスが出会い暮らした時期は、戦争の時代と重なる。度重なる空襲に襲われ、そして戦争が終わり、平和な時代が訪れる。その流れを二人はともに生きていく。

クレアにとってクラレンスは癒しの存在だろう。そして、彼の存在が彼女に与えた数々の幸せや慰めは、彼女の生き甲斐であっただろう。

クラレンスにとってクレアはどのような存在だったのだろうか。彼女に甘え、ときに機嫌を損ねてみせたとき、彼は彼女に何を求めていたのだろう。

クラレンスは歌い、鳴くことができた。クレアは、その歌声や鳴き声に彼の心の内を理解した。二人は、種を越えて、家族であり、恋人であり、深く結ばれたパートナーであった。

やがて、クラレンスは老いてゆく。彼の身体は次第に弱っていき、羽が抜け落ちる。一時は持ち直すが、彼の命の灯は着実にその火を消そうとしていた。

クラレンスは、最後にクレアの手のひらの中で死んでいく。ずっと身動きもしなかったクラレンスが、最期の瞬間にクイッと頭をあげ、細く鳴き声をあげたとき、彼の命の火は消える。

彼は、最後にクレアに告げたのだ。それは、きっと彼女への感謝と愛の言葉だったに違いない。長年連れ添った夫婦が、最後まで互いに通じ合うように、クラレンスは最後までクレアを愛していたはずだ。