タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

これはフィクションだ。ただし、限りなくリアルに近いのかもしれない-月村了衛「土漠の花」

日本の自衛隊は、世界各地で人道支援のための活動に従事している。また、日本という国自体が、人道支援を目的として紛争周辺地域の国々などへと多額の資金援助を表明しており、そのことが世界的に評価されていたり、反感を買っていたりする。

土漠の花

土漠の花

 
土漠の花

土漠の花

 

東アフリカ、アラビア半島に面した場所にある国・ソマリア。長く内戦状態が続き、その混乱以降も、アデン湾での海賊行為が横行するなど、国際的にも脅威となっている場所が、本書「土漠の花」の舞台である。

海賊対策、人道支援を目的として日本から派遣されている自衛隊の隊員たちは、墜落したヘリの確認と回収のためのチームを編成し現地へ向かう。その野営地に助けを求めに来たのが3人のソマリ人女性だった。彼女たちは、少数部族のスルタンの娘とその従者。彼女たちの集落が敵対する部族の襲撃を受けたため、命からがら脱出し、偶然そこで野営していた自衛隊の部隊に遭遇して助けを求めたのである。人道的立場から彼女たちを保護することを決めたところに、敵対部族の民兵部隊が襲来。たちまちのうちに彼らは窮地に陥り、そこから必死の逃走劇がスタートする。

活動に関する様々な制約を有する自衛隊が、図らずも派遣地域における戦闘事態に巻き込まれたら?

本書のポイントは、この点にあるのだと思う。ご承知の通り、自衛隊には武器使用その他で他国の軍隊にはない活動制約がある。本書では、友永ら事態に巻き込まれた隊員たちは、自らに対する攻撃への対抗措置として武器使用を判断し、敵対勢力との戦いに踏み込まざるを得ない。

また、戦いに巻き込まれた隊員の心の葛藤にもスポットが当てられる。特に、平時における訓練では自衛隊随一とされる射撃の名手・津久田が、実際に人を撃つという行為に怖気づくところは、実戦経験のない自衛隊員としてリアルに想定されることのように思う。

本書に書かれるような事態は、現実はあり得るのだろうか。著者の月村了衛氏は、産経新聞のインタビューで、次のように答えている。

「(舞台は)まったく現在です。というよりは、いろんな人に指摘されますが、いつあってもおかしくない内容だし、実はすでに起こっていることではないか、とよく言われます。そういう意味ではまったく現在の話であって、ありえない設定はほぼないといえます。そのためにも取材はかなり入念に行いました」


自衛隊は実際に戦えるのか? ソマリアが舞台の『土漠の花』著者・月村了衛さんに聞く - 産経ニュース

かつて、イラクへの自衛隊派遣について国会で質問された当時の小泉首相が、「自衛隊が派遣されるところは非戦闘地域だ」と発言したことがある。たてまえとして、自衛隊は戦闘地域には派遣されることはなく、活動も人道支援に限られる、とされる。しかし、現実には紛争地域への派遣であり、危険リスクは必ず存在するのだと思う。

自衛隊の国際貢献には、賛否両論あって、どちらにも言い分がある。日本も国際社会の一員として具体的な行動による貢献が求められているという意見もあれば、憲法に基いて自衛隊を海外に派遣することは違憲であると主張する意見もある。本書は、あくまでもフィクションであり、エンターテインメント小説として手に汗握り、ワクワクドキドキしながら読む小説だ。でも、読み終わった時に少しでも、本書が提示する課題について考えてみることも必要なのではないだろうか。