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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

子供が誘拐された!でも全員揃ってる。じゃ、誘拐されたのは誰?-連城三紀彦「小さな異邦人」

「誘拐物」というジャンルの小説は、だいたいのパターンが出尽くしていると思う。それだけに、誘拐物の小説には印象に残る面白い作品が多いと感じる。例えば高木彬光の「誘拐」であり、例えば井上夢人の「99%の誘拐」であり、西村京太郎の「華麗なる誘拐」である。

小さな異邦人

小さな異邦人

 
小さな異邦人 (文春e-book)

小さな異邦人 (文春e-book)

 

連城三紀彦「小さな異邦人」に収録されている表題作「小さな異邦人」は、誘拐事件を扱った短編である。ただ、本作に描かれる誘拐事件は、従来の一般的な(という言い方は正しくないかもしれないが)誘拐事件とは真相を異にする。

8人の子供を抱え、シングルマザーとして子育てに奮闘する柳沢家にある日1本の電話が入る。電話の相手は、柳沢家の子供を誘拐したと告げ、身代金三千万円を用意するように要求する。誘拐されたのは誰か?確認してみると8人の子供たちは、誰一人欠けることなく家にいるではないか。これは悪質なイタズラに違いない。だが、犯人は2回めの電話でも柳沢家の子供を誘拐したのだと告げる。「誘拐されていることに気づいていないのだ」と。

「小さな異邦人」の真相は、もしかするとアンフェアになるのかもしれない。だが、真実の存在は巧妙に作中に散りばめられている。ポイントは、語り部の一代にある。

表題作以外の7編は、連城三紀彦らしい叙情性と美しさによって構成されている。いずれも男女の微妙な関係性であったり、親子、特に母と娘の関係性が描かれ、そこにミステリー的な構成が絡み合ってくる。時効を巡り事件を追う刑事と犯人の愛人とされる女を描いた「無人駅」は、ファム・ファタール小説であり、会社の上司にまつわる噂が主人公を混乱と疑心暗鬼に誘う「風の誤算」では、現実にもありそうな社内力学や人間関係にブラックな笑いを禁じ得ない。

私は、連城三紀彦という作家の熱心な読者ではなかった。過去に読んだ作品は、「流れ星と遊んだ頃」と「造花の蜜」の2作品だけで、直木賞を受賞した「恋文」も「人間動物園」も未読である。今回の「小さな異邦人」が、実に久しぶりの連城作品だった。

連城三紀彦は、2013年10月にこの世を去った。その死を受けて、2014年には、本書の他に、長編小説として「女王」と「処刑までの十章」が、短篇集として「連城三紀彦レジェンド傑作ミステリー集」が出版されている。そのいずれもが高い評価を受け、年末のミステリーベストテンにランキングされた。改めて、連城三紀彦という作家の存在感が広く認知された年だったのだと思う。

女王

女王

 
処刑までの十章

処刑までの十章