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信頼、愛情、そして友情。スコットとマギーのトラウマと絆-ロバート・クレイス「容疑者」

犬バカならプロローグのピートとマギーの場面を読んだだけで、グッと胸が詰まるだろう。

容疑者 (創元推理文庫)

容疑者 (創元推理文庫)

 
容疑者

容疑者

 

ロバート・クレイス「容疑者」は、互いに最愛のパートナーを失い、自らも肉体的、精神的に傷ついた経歴をもつスコットとマギーの再生の物語である。

マギーは、警備犬および爆発物探知犬としてアフガニスタンに赴き、ピートと共に任務にあたってきた。そのピートが敵対勢力との銃撃戦で命を落とし、マギー自身も撃たれて重傷を負う。一方のスコットも、パトロール中に銃撃戦に巻き込まれ、最愛のパートナーであったスコッティを失い、自らも重傷を負った。

共に深刻なダメージを負ったスコットとマギーは、回復後警察犬隊の巡査と警察犬として傷ついた物同士コンビを組むことになる。肉体的なダメージは回復しても彼らが抱えた精神的ダメージは深い。それでも、彼らは少しずつ自分を取り戻し、互いの信頼を深め合っていく。

物語は、スコットが巻き込まれた銃撃戦の真相を巡るミステリーとなっている。パートナーを見殺しにしたという思いの深いスコットは、マギーとコンビを組むことにより、彼女の有する警察犬としての能力から事件の真相へと近づいていくことになる。スコットとマギーが追い詰めることになる意外な人物こそが、本書における「容疑者」ということになる。

スコット側の視点で物語は進んでいくが、合間に挟まれるマギー視点の章が犬バカの心根をグッと掴む。初めてスコットの部屋を訪れたとき。スコットの放つ体温や匂いによって彼の心理や体調を理解するとき。マギーがスコットについて知ることの一番の材料は彼や彼の周囲の人々、環境が放つ匂いである。嗅覚というマギーの最大の能力を使って、彼女はすべてを理解し、受け入れていく。

人間が視覚と聴覚、スキンシップによって犬の感情を理解するように、犬は嗅覚を通じて人間を理解する。信頼から愛情、友情へと深まっていくスコットとマギーの関係は、物語が佳境を迎える中でラストに胸を熱くさせる展開を見せていく。

ロバート・クレイスは、私立探偵エルヴィス・コールを主人公としたハードボイルドシリーズでよく知った作家だった。今回の「容疑者」は、私としてはかなり久しぶりのロバート・クレイス作品だが、スコットとマギーのパートナーシップ、特にマギーの凛々しさと愛苦しさにすっかり魅了されてしまった。スコット&マギーのシリーズ化を切望するところである。