ガタガタ書評ブログ

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歴史に名を刻めなかった人たちの記録-ポール・コリンズ「バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人」

2014年は、STAP細胞を巡る騒動が印象に残った1年だった。華々しい発表会見から始まり、論文内容や実験データに対する疑惑、研究者の死、そして検証実験の結果、再現されることのなかったSTAP現象。わずか1年に満たない間に科学界の明と暗を一気に見せられた気がする。

バンヴァードの阿房宮: 世界を変えなかった十三人

バンヴァードの阿房宮: 世界を変えなかった十三人

 

STAP問題は、ある意味で科学の歴史に爪痕を残したと言えるかもしれない。ただ、それは不名誉な記録としてであり、このことが世界の科学界に変化をもたらしたという訳ではない(反省と改善にはつながるかもしれないが)。

本書「バンヴァードの阿房宮」には、様々な形で世界に爪痕を残したものの世界を変えるような影響を与えるには至らず、いつしか忘れ去られた人々の話が13人分記されている。ミシシッピ川沿岸の風景・風俗を大規模なパノラマ絵巻として描き、舞台上で公演することで巨万を富を得た男の話や、シェークスピアの未発表作品を偽造した男の話など科学、文学その他の分野で起きた知られざる人物の話がグッと凝縮されており、興味深い人物をピックアップして読むも良し、最初から順番に読むも良しのノンフィクションである。

表題作になっている「バンヴァードの阿房宮」で紹介されるジョン・バンヴァードは、19世紀に一世を風靡した風景画家であり興行主である。彼は、全長3マイルにも及んだとされる壮大なパノラマ絵巻を描き、それを舞台上で観客に見せる興行によって莫大な財産を築いた。彼が自らの財産によって建築した自宅は、「バンヴァードの阿房宮」と呼ばれ、富の象徴として世間の耳目を集めた。しかし、大豪邸建築を始めとする贅沢な生活による浪費や映画の発明といった新しい時代の波には抗えず、バンヴァードは次第に没落していく。その晩年は実に寂しいものだったようだ。

また、「N線の目を持つ男」と題された章では、昨年のSTAP騒動を連想させる科学の大事件が記されている。ルネ・ブロンロというフランスの科学者が、「N線」という新たな放射線を発見したと発表したことから始まる一連の騒動。当初は、他の科学者たちもブロンロの発見を肯定し、自らもN線を実証するべく実験に取り組むのだが、ブロンロ以外の科学者にはN線がなかなか実証できない。ブロンロが言うには、N線は極めて微細な放射線であり確認するためには相当の注意力が必要となるらしく、その辺りはSTAP細胞を発見した小保方さんの「私なりのレシピ」の話と似ている。N線についても、あまりに実証が難しい状況に疑問を感じたアメリカ人物理学者によって、ブロンロの実験における不正が暴かれ、N線の存在が否定されたことで騒動は終息したのだが、その後もブロンロ自身はN線の存在を信じ続けていたという。「STAP細胞はあります」ならぬ「N線はあります」ということだったのだろう。

他にも地球内部空洞説を唱えた人物や、圧搾空気を利用したチューブ状の地下鉄道を建設しようとした人物など、トンデモ系に分類されそうな人物の話が収録されていて、どの話も実に興味深い。それぞれの偉人の話を、くだらねえと笑い飛ばしたり、バカげていると呆れ返ったりしながら楽しく読める本だと思う。