「スタッキング可能」が各所で話題となり好評によって第4回Twitter文学賞の第1位になった松田青子の第2作品集。今回も前作に劣らない傑作であると断言しよう。
本書には6編の短編が収録されている。
・英子の森
・*写真はイメージです
・おにいさんがこわい
・スカートの上のABC
・博士と助手
・わたしはお医者さま?
表題作でもある「英子の森」は、個人における様々な要素を“森”として見立てている。森は家であり、森はアイデンティティであり、森はドリームであり、森はリアルである。森が示すものは無限にある。
「英子の森」の主人公英子にとって、森は自らの英語力を活かして積み上げたいキャリアであり、そこから派生するアイデンティティだ。しかし、英子の英語は彼女の夢をかなえてくれるほど有効には働かない。派遣として働く彼女にもたらされる仕事は、コンベンションホールでの受付や論文のチェック程度でしかない。彼女は自らの森を見つけられずにひたすらにもがく。母の庇護という森を離れたいと願い、他人の森に依存したいと期待したりもする。
「*写真はイメージです」は、皮肉たっぷりのユーモア。どんなことでも「○○はイメージです」とつけておけば許されることへの揶揄。「○○はイメージです」、「個人の感想です」の有する巧みで卑怯な逃げの姿勢が面白い。
ラストに収録されている「わたしはお医者さま?」は、自分だけがわからない自分に与えられた職業名を様々な質問を投げることで特定していくゲームをする人たちの物語。最初は、消防士、銀行員、医者などの職業が設定されていたが、誰かが「ペンギンナデ」なる珍妙な職業を設定したことで、ゲームは次第に自分がなりたい想像上の職業をあげることに流れていく。本作は、NHKのラジオテキスト「英語で読む村上春樹」に書かれたものなのだが、それを知って読み返すと全編に村上春樹らしさを発見することができる。
「スタッキング可能」に続いて「英子の森」という傑作を世に出した松田青子のポテンシャルの高さに瞠目するとともに、次はどんな作品を出してくるのか、ぜひ長編を読みたいというさらなる欲求が湧き上がってくる。ひとつ言えるのは、今年、このあと相当の傑作が現れない限り、第5回Twitter文学賞の国内編は「英子の森」に投票するだろう。