ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

この作家の存在を知ることができたのは今年の個人的な収穫である-イレーヌ・ネミロフスキー「ダヴィッド・ゴルデル」

海外文学の世界には、まだまだ知らない作家が埋もれている。特に、ロシアや旧ソ連諸国、東欧諸国などのいわゆる東ヨーロッパ圏の作家は翻訳紹介される機会が近年増えてきていて(松籟社のように東欧文学を中心に翻訳出版を手がける出版社もある)、そこには、これまでの英米文学にはないタイプの作品がある。

ダヴィッド・ゴルデル

ダヴィッド・ゴルデル

 

個人的に、2014年の海外文学で収穫だったと思えるのは、イレーヌ・ネミロフスキーという作家の作品に出会えたことだ。中でもデビュー作である「ダヴィッド・ゴルデル」は、ストーリー的にはありふれた人間ドラマのように思えるが、この作品を皮切りにイレーヌ・ネミロフスキーという作家が活動した時代(1930年代からアウシュヴィッツで亡くなるまで)を背景として考えれば、ダヴィッドの繁栄と没落の記録は、現代社会にも通じるものがあり、不変性や先見性を感じさせる。

ユダヤ人実業家として成功を収めたダヴィッド・ゴルデル。彼は長年、仕事を生きがいにして現在の富を築き上げた。だからこそ、彼が援助を拒んだことでマルキュスが死を選んだとき、彼はその死を罵り、生きることへの執着をあからさまにする。富を持ちすぎたが故に、家庭は崩壊した状態にあり、妻も娘も、誰もが自分を金でしか見ていないと感じる。ダヴィッドには味方と呼べる者は誰一人としていないのだ。それでも、彼は娘を溺愛していた。

狭心症を患い、時折発作に襲われるダヴィッドは、自らの命の残りが僅かであると自覚している。だからこそ、最後に娘のために大きな取引を画策する。交渉のためにソヴィエトに向かった彼は、契約締結へ向けた激しいやりとりで心身ともに疲弊する。そして、契約を成立させて帰国する船の中で、彼は寂しくその生涯を閉じるのである。

ダヴィッド・ゴルデル」以降、「クリロフ事件」、「秋の雪(※短篇集)」を読んだ。「クリロフ事件」は、「ダヴィッド・ゴルデル」とは作風の異なる骨太の社会派小説だ。その他、まだ未読の作品としては、「この世の富」と「フランス組曲」がある。

イレーヌ・ネミロフスキーは、ユダヤ人としてナチス・ドイツの迫害を受け、アウシュヴィッツで亡くなった。残された作品は少ない。しかし、本書も含め、その作品には当時の時代を反映し、現代にも通じるメッセージ性が強く表れているように思える。こういう作家の作品を翻訳し出版してくれる出版社(未知谷白水社)に感謝したい。

フランス組曲

フランス組曲

 
クリロフ事件

クリロフ事件

 
秋の雪―イレーヌ・ネミロフスキー短篇集

秋の雪―イレーヌ・ネミロフスキー短篇集

 
この世の富

この世の富