ガタガタ書評ブログ

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阿部和重×伊坂幸太郎が生み出すエンターテインメントの絶妙なコラボレーション-阿部和重・伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト」

腐れ縁というヤツがある。子供の頃からの付き合いで、人生のターニングポイントとなる時に不思議とそいつがそばにいる。困難に陥っている時に、必ずそいつが手を差し伸べてくれる。そういう友人がいる。

キャプテンサンダーボルト

キャプテンサンダーボルト

 
キャプテンサンダーボルト
 

阿部和重伊坂幸太郎。純文学作家とエンタメ作家がガッチリとタッグを組んで生み出したのは、子供の頃からの腐れ縁の友人同士が、困難に立ち向かうヒーローエンターテインメント小説だ。

「キャプテンサンダーボルト」の主人公は、相葉時之と井ノ原悠の幼なじみコンビと、「村上病」と呼ばれる感染症に関する謎を調べている桃沢瞳の3人と、彼らと行動を共にしているカーリーコーテッド・レトリーバーのポンセだ。彼らは、相葉が偶然に手に入れたスマートフォンを巡ってトラブルに巻き込まれている。そのスマートフォンには、村上病と蔵王のお釜の水を結びつけるキーワードが隠されている。彼らを追うのは、冷酷無比な銀髪の怪人だ。

相葉も井ノ原もそれぞれに重い家庭事情を抱えている。相葉は、自らが招いたトラブルが原因で多額の借金を背負うことになり、実家の土地家屋を失う寸前にある。井ノ原は、一人息子が患う重度の皮膚病の治療にかかる医療費に苦しめられている。

読者の好奇心をワクワクとさせるエンターテインメント性に飛んだ作品だ。戦争末期の東京大空襲の際に数機のB29がコースを外れ、宮城と山形の県境にある蔵王のお釜付近に墜落したという事件と、その御釜を感染源とする村上病という感染症の問題、相葉と井ノ原が子供の頃にブームとなり、主役のレッドが問題を起こしてお蔵入りとなったとされる戦隊ヒーロー「鳴神戦隊サンダーボルト」の幻の劇場公開版の存在、そしてすべての中心になる蔵王お釜のゴシキヌマ水の秘密。次から次へと繰り出される見せ場は、ページをめくる手を止めさせず、気づけば徹夜で読みふけってしまっている自分がいる。

阿部和重伊坂幸太郎の2人は、「キャプテンサンダーボルト」のプロモーションを積極的に展開している。特設サイトが開設され、ロングインタビューが掲載されているし、全国の書店周りも積極的に行われたようである。


阿部和重 伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』|特設サイト|本の話WEB

 

そのプロモーションの一環として行われたトークイベントに参加する機会を得た。自分の作品ではその手のイベントを行ったことがない伊坂幸太郎さんが読者の前で話すのは、これが最初で最後かもしれないということで、当日の会場は相当に盛り上がった。

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イベントでは読者の質問に答える形で、合作の苦労話や創作における役割分担などの裏話が披露された。例えば、本書に登場する感染症の「村上病」という命名について、2人がいわゆる「村上チルドレン」ととして括られることが多いことから、村上春樹の存在が意識されているのかとの質問があった。これに対して阿部さんは、「そのように言われると思った。特に春樹を意識している訳ではない。もうひとりの村上(龍)の方かもしれないですよ」と受け流すような形で答えていた。

登場人物その他の名前については、現実との関連性を推測させる要素が多い。相葉と井ノ原はジャニーズアイドルとリンクしているのではないか、とか、終盤に登場する島田や筒井は、それぞれ島田雅彦筒井康隆から命名されているのか、等。島田、筒井については、イベントの中で阿部さんは、「島田に関しては意識的。島田さんは寛大なので」というニュアンスの発言をしていた。

2人による合作作業は、どのように行われたのか。最初の打ち合わせの段階から作品の構想はだいぶ練り上げられていたらしい。イベントでは当日の打ち合わせメモも紹介され、最初の段階から物語の方向性が定まっていたことが明らかにされた、漠然としたイメージとして2人の間に立ち現れた物語は、伊坂さんによって具体的なプロット図にまとめあげられ、以後それぞれの分担によって交互に作品が形作られていく。イベントでは、初期段階のプロット図が参加者に配布されたが、その内容は初期段階といえどかなり具体的であり、作家の創作の秘密が垣間見える貴重な資料と思う。

こうして「キャプテンサンダーボルト」は完成し、そして私たち読者の元に届けられた。阿部和重ファンも伊坂幸太郎ファンもどちらも満足できる作品になっているように思う。なお、阿部さんはイベントの中で、「これまでの作品は子供に自慢できる内容じゃなかったけど、今回は初めて息子に自慢できる作品になった」とコメントしていた。なるほど、「グランド・フィナーレ」を子供に薦めるのはためらうけど、「キャプテンサンダーボルト」なら大丈夫だ。

f:id:s-taka130922:20141206080337j:plainイベント当日にいただいたサインとCTB缶バッジ