ガタガタ書評ブログ

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暗鬱としたモノクロームの世界に悲劇だけが克明に描かれる-アンナ・ヤンソン「消えた少年」

昨今の北欧ミステリの勢いには眼を見張るものがあるなぁ、と思うのです。代表的なものとしては、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」シリーズがあげられます。ミステリ・マガジン2月号には、2015年の早川書房の出版予定作品として「ミレニアム4(仮)」が夏に全世界で発売予定とのこと。作者のスティーグ・ラーソンは既に鬼籍に入っていますので、ダビド・ラーゲルクランツという作家が後を引き継いで執筆しているのだそうです。

消えた少年 (創元推理文庫)

消えた少年 (創元推理文庫)

 

さて、アンナ・ヤンソン「消えた少年」は、スウェーデンを舞台にしたサスペンスです。ひとりの少年が姿を消したことから始まる複数の家族の悲劇を通じて、家族という存在の脆さが描かれています。

本書に登場する3つの家族は、それぞれに複雑で重苦しい家庭事情を抱えています。長男のパトリックを水の事故で亡くした過去を持ち、今回次男のアンドレアスが忽然と姿を消してしまったシャルロッタ・ニルソンは、病的なまでに子供の健康を気遣う母親です。

アンドレアスの失踪について何らかの事情を知っているとされるオスカルとペッテル。彼らそれぞれの家庭も決して安定しているわけではありません。ペッテルの父マッティンは、オスカルの母エルヴィーラと肉体関係があり、その現場をアンドレアスに目撃されていました。マッティンは、妻であるスサンヌの存在に少なからぬ劣等感を抱いていますし、エルヴィーラは、夫で政治家であるラーシュとの夫婦関係が冷えきっています。彼らが家族を維持しているのは、ペッテルとオスカルというそれぞれの子供たちの存在があるからに過ぎません。それが、アンドレアスの失踪によって、わずかに残されている繋がりさえも断ち切られていくのです。

物語は、アンドレアスの行方を追う中で様々に展開していきます。アンドレアスの父親でシャルロッタの元夫でもあるトミーもいつの間に姿を消してしまい、彼が経営する居酒屋の地下で遺体となって発見されます。酷い暴行を受けたロシア人売春婦や国外退去命令を受けたチェチェン人の少年アンドレイの失踪、放射性廃棄物に絡む問題など、一見するとそれぞれに無関係と思われる事件が次第に関わりあっていき、悲劇的なラストへと突き進んでいきます。

事件を捜査するのは、女性捜査官のマリア・ヴェーン。彼女は同僚たちと共にアンドレアス失踪事件を捜査し、確実に事件の真相へと迫っていきます。

本書は、マリア・ヴェーンシリーズの第8作目になるのだそうです。訳者あとがきによれば、アンナ・ヤンソンは、このマリア・ヴェーンシリーズで人気の作家であり、大ベストセラー作家であるとのこと。訳者とアンナ・ヤンソンとの出会いは、翻訳ミステリー大賞シンジケートの2013年8月の記事でも少し触れられています。

マリア・ヴェーンシリーズは、本国では12作が既に刊行されているそうです。本書が日本でも受け入れられれば、シリーズの他の巻も翻訳刊行されるかもしれません。他の作品も読んでみたいと思うので、ぜひ多くの人に読んでほしいなと思うのです。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
ミレニアム2 火と戯れる女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム2 火と戯れる女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
ミレニアム2 火と戯れる女(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム2 火と戯れる女(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
ミレニアム3  眠れる女と狂卓の騎士(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)