タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

将来の夢は世界征服!そんなことは夢のまた夢-岡田斗司夫「「世界征服」は可能か?」

私が子供の頃は、変身ヒーロー物の特撮ドラマ(実写だから、アニメじゃないよな)の全盛期で、ありとあらゆる変身ヒーローが登場した。歴代の仮面ライダーレインボーマン、バロムワン、ゴレンジャー(これは変身ものと言うよりは戦隊もの)などなど。私もライダー自転車を買ってもらい、変身ベルトを腰に巻いて原っぱを駆け回ったものだ。

ヒーローがいれば、当然悪役がいる。仮面ライダーならショッカー、ゲルショッカーデストロンなどなど、レインボーマン死ね死ね団だった。これら悪の秘密結社の皆さんは、世界征服を目指して次々と改造人間をおくりだし、ヒーローとの勝負を挑んでは散っていった。

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

 

本書は、そんな「世界征服」を目論む悪の秘密結社にスポットを当て、果たして「世界征服」は可能なのかを極めて真面目に考察したものだ。世界征服の目的は何か。そのための手段(プロセス)にはどのようなアプローチがあるか。実現するために必要なコスト。末端の戦闘員に至るまでの人心掌握術。そういった、悪のリーダーとして必要な資質を検証し、世界征服の実現性を検証していく。

本書によれば、世界征服はスケールばかりが大きくて、メリットは何もないということがわかる。そもそも世界を征服した後はなにをするのか。世界征服を最終目的とした時点で、その目的を達成した後には、目的を失った虚無感ばかりが残る。つまり、世界征服とは究極の達成目標であり、それ以上の目標、目的は持ちようがないのだ。

また、人心掌握の面でも苦労はつきまとう。部下である戦闘員たちには、命を投げ出してもらわなければならないのだ。「この人のためなら命を捨てても良い」と思わせるほどの強烈なカリスマ性が必要となる。かといって、独善的では人心掌握は難しい。当然反発もあるだろう。労働法規など(悪の組織に法律を適用する必要性があるかは別にして)に準拠して戦闘員を雇うことになれば、福利厚生なども考えていかなければならない。

とかく悪のリーダーには組織維持の観点で様々なリスクがあり、多くの苦労が伴う。本書にあるバビル2世の敵ボス・ヨミのハードワーク振りを図示したフローチャートが掲載されているが、このフローチャートがリーダーの苦労の重さを的確に表しているように思う。

本書には、「世界征服」という究極の目標を実現するためのプロジェクトの在り方、プロジェクトを推進する立場にあるリーダーのリーダーシップとマネジメントに関する考え方、それらを総合的にみた上でのリスクマネジメント理論が書かれている。「世界征服」という妄想の絵空事を素材としながら、至極真っ当なリーダー育成、自己啓発に資する内容になっている。この本を読んで現実に世界征服を目論む人はいないと思うが、とにかく、本書を読めば世界征服の野望など絵に描いた餅だということがよくわかると思う。