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理想の政治とはなにかを考えてみよう!-原田マハ「総理の夫」

このレビューを書いている2014年11月半ば、世間は間近いとされる衆議院解散総選挙で浮き足立っている。

総理の夫

総理の夫

 
総理の夫

総理の夫

 

原田マハ「総理の夫」は、日本初の女性総理大臣となった相馬凜子の夫である相馬日和の書き残した日記という体裁で書かれるエンターテインメント小説。総理大臣の夫=“ファースト・ジェントルマン”となってしまった相馬日和の困惑と妻への愛情が描かれる。

相馬日和は、野鳥の観察と研究を生業とする研究者であり、一大財閥である相馬家の次男坊だ。彼の妻である相馬凜子とは、相馬グループが主催する勉強会に、当時新進気鋭の若手政治学者として現れた凜子に、日和が一目惚れしたことで交際が始まり、結婚に至る。凜子は、日本の未来を真剣に憂う政治家として国会議員に選出され、少数政党の党首として奮闘する。やがて、与党の分裂による総選挙で勝利。他の政党との連立によって政権を得、日本初の女性総理大臣に就任する。こうして、日和は、日本初のファースト・ジェントルマンとなる。

いわゆる政治のドロドロとした世界を描いているのだが、日和というちょっと頼りないナヨっとした男を中心人物に据えたことで、硬派な雰囲気が薄らぎ純粋なエンターテインメント小説になっているように思う。小沢一郎を髣髴とさせる政界のフィクサー的キャラを対立軸的に配置し、凜子総理を窮地に陥れようとする策略を巡らせるなどのギミックも盛り込んでいる。

小説という虚構の世界なので、凜子総理の支持率が異常に高いことや彼女が考える政策の実現性といった野暮なツッコミはするべきではないだろう。現在の日本の政治に不満をもつ読者が、たとえ絵空事であったにしても凜子総理の出す政策や彼女の奮闘ぶりに溜飲を下げることができたのなら、本書のエンタメ小説としての役割が十分に果たされたと言える。消費税導入の是非を問う解散総選挙に勝利し、第2次相馬内閣を発足させた凜子が、日和との子供を妊娠し、出産と子育てによる国政への影響を与えぬようにと下した決断。その決断に対する日和の母(凜子にとっての姑)の対応が素晴らしい。

こうした政治的な物語を描くと、そこに書かれている政権像や政策が著者の思想信条であると捉えられる。それをもって、著者が右寄りか左寄りか的な批判を行う輩もあるだろう。そこを覚悟の上で、凜子がぶちあげる政策には著者の希望が色濃く反映されているのだと思う。