ガタガタ書評ブログ

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アニメに対する情熱があり、作品は生まれていく-辻村深月「ハケンアニメ」

アニメは好きですか?

日本のアニメは、世界でも高く評価されていて、日本を代表する文化的コンテンツになっている。毎年開催されるアニメショーには海外からの参加者も多いし、10月に開催された東京国際映画祭でもアニメーションが相当にフィーチャーされていたようだ。

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

 

辻村深月「ハケンアニメ」は、アニメ業界を題材にした作品である。
「ハケンアニメ」=「覇権アニメ」、つまり同時期に製作されたアニメ作品の中でナンバーワンとなったアニメの称号である。アニメ業界のブラックさを揶揄して「派遣アニメ」という意味ではない。

天才肌のわがままな監督・王子千晴に振り回されるプロデューサーの有科香屋子。大学生でアニメに出会って衝撃を受け、それがきっかけでアニメ制作会社に就職し、今回初監督に挑む斎藤瞳。子供の頃から人付き合いが不得手でアニメの世界に没頭してきたアニメーターの並澤和奈。アニメ業界で働く、それぞれ立場の違う女性3人が本書の主人公たちだ。

アニメに携わる人は、そもそもがオタクであり、コミュニケーション能力に乏しく、結果としてアニメだけが友達のような非リア充な人だ、という偏見がある。本書でも、和奈はそういう性格の人物として、当初は描かれている。

しかし、実際には、王子も香屋子も瞳も行城も、ちょっと変わり者な面はあるかもしれないが、根幹は至って普通の人間だ。和奈にしても「サバク」の聖地巡礼企画で市職員の宗森と仕事を進めていく中で変化していく。ただ、彼らは自他共に認めるアニメ好きなのだ。そして、好きなアニメを仕事にしてしまった人たちなのだ。

本書は、確たるテーマが存在するというよりは、アニメ業界とそこで働く人々の情熱や葛藤を細かく積み重ねていくことで、人間的なドラマを描き出しているように読んだ。アニメを作ることに集中し、それ以外には関がのない(気が回らない)王子や瞳のような監督と、彼らをフォローする香屋子や行城のようなプロデューサー。監督の要望とプロデューサーの無理難題を引き受けて原画を描く和奈のようなアニメーター。彼らのうち誰が欠けても作品は完成しないが、彼らのパワーが融合すれば、作品に命が宿り、それが多くのファンに届く。

アニメと小説は似て非なるものであるかもしれない。それでも、本書を執筆する中で、アニメ業界を自らの文学界に重ねあわせた部分が、辻村さんにはあったかもしれない。最終章に書かれた王子と瞳の対談の中で彼らが話すことは、辻村さんが小説を書く上で考えていることと合致するのではないだろうか。

それにしても、作中で描かれた王子の「リデルライト」と瞳の「サバク」は、実際のアニメ作品として観てみたいと思った。どこかのアニメ会社で制作してくれないだろうか。