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きみは赤ちゃん、母は女神様-川上未映子「きみは赤ちゃん」

女性って本当に大変なんだなぁ~、というのは率直な感想です。この大変さは、男には絶対に理解できないと思います。

きみは赤ちゃん

きみは赤ちゃん

 
きみは赤ちゃん

きみは赤ちゃん

 

芥川賞作家の川上未映子さんは、2011年に同じく芥川賞作家の阿部和重さんと結婚し、翌2012年に男の子を出産しました。本書は、川上さんの妊娠、出産、子育てに関する実体験を自ら綴ったエッセイです。

いやもう男の自分には想像もつかないような話ばかり。そりゃそうです。だって、男は最初に手前勝手に気持ちよくなって種を仕込んだら、後は子供が生まれて目の前に現れるまで何もすることがない。お腹の中で新しい命を育んでいる女性とは、妊娠、出産に対する苦労や心構えが全然違います。

そんな妊娠、出産に対する男女差は、本書の中でも随所に描かれます。川上さん夫妻の場合、夫のあべちゃん(と本書内では呼ばれている)も作家なので、一般サラリーマンの旦那様よりは妊娠、出産、育児への関わりができているのですが、それでも色々とテンパっている川上さんからすれば、いちいち癇に障るのです。あべちゃん、頑張ってるのにかわいそうな気もします。

それにしても、妊娠、出産、育児というのは、こんなに大変なのですね。

例えば、金銭的な面。川上さんは無痛分娩による出産を選択したので、通常の出産であれば自治体等からの補助金で賄える出産費用以上にお金がかかります。総額では100万円を超える費用が必要です。補助金で賄えない分はもちろん自腹。

もちろん、出産してからも様々な苦労があります。川上さんは、母乳による育児を選んだため、3時間おきに授乳が必要となりました。加えて、彼女自身に完璧主義な面があるのか、食事の支度や作家としての仕事もこれまでと同じレベルとこなそうとします。その結果、情緒不安定な状態に陥ってしまい、あべちゃんに当たりまくったりしてしまうのです。

川上さんが陥ったような産後クライシスは、決して珍しいことではないのだろうと思います。きっと、多くの出産を経験した女性が同じような産後クライシスを経験しているのでしょう。こういう時も、奥さんのつらい気持ちを受け止めてあげることしかできないという意味で、男は役に立たないものだなぁ、と思ってしまいます。むしろ、あべちゃんは頑張っている方に入るでしょう。妊娠中の奥さん、育児中の奥さんをお持ちの旦那様たちは、せめてあべちゃん並に奥さんをサポートしてあげてほしいものです。

本当に様々な苦労の末に母親となった川上さん。それでも、妊娠、出産が彼女にもたらした幸せは計り知れないものがあります。川上さんが産後クライシスに陥っていた時期に、そのときの感情をアイフォンに綴っていた言葉にグッと来ます。

「出産を経験した夫婦とは、もともと他人であったふたりが、かけがえのない唯一の他者を迎えいれて、さらに完全な他人になっていく、その過程である」

夫婦は他人であるがゆえに、互いを結びつける何かを必要とします。それが子供なのでしょう。まさに「子はかすがい」。

本書は、息子・オニくんの1歳の誕生日を迎えたところで幕を閉じます。「生まれてきてくれてありがとう」の言葉に心が温かくなりました。