「まっくら、奇妙にしずか」について書いた中で言及しておきながら本書の感想をアップしていませんでしたので、慌ててアップなう(笑)
- 作者: Shaun Tan
- 出版社/メーカー: Arthur a Levine
- 発売日: 2007/10
- メディア: ハードカバー
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本書には、文章は一切ない。会話もなければ、地の文もない。いや、会話はある。会話はあるがセリフは書かれていない。本書は、絵だけで表現される物語なのだ。
ある家族がいる。両親と娘の三人家族は、苦しい生活から逃れるために新天地への移住を考えている。
まず、父親が先に新天地に向けて海を渡る。言葉も満足に通じない異国の地で、どうにか部屋と仕事を探し、少しずつ新しい生活を軌道に乗せていく。異国の地には、多様な人種があふれ、同じくらいに不思議な姿態の生きものがあふれている。父親が住みついた部屋にも不思議な生物が住みついていて、いつしかその生きものは父親にとっての癒しの存在になっていく。
こうして、異国の地での生活に一定の目処がついた父親は、妻と娘を呼び寄せる。そして、再会した三人は、新天地での新しい生活をスタートさせる。
セリフも説明の文も一切書かれていないのに、静謐なタッチで精密に描かれる絵が発する表現力だけで、すべてのストーリーがなんの違和感もなくすんなりと心に入り込んでくる。だからこそ、ラストシーンで主人公家族と同様に新しい生活を求めて異国の地にやってきた新参の女性に対して、娘がなにかを教えてあげている一コマがグッと心に迫ってきて、思わず涙が浮かんでくるのだ。
いつまでも手元に置いておきたくなる1冊だと思う。