ガタガタ書評ブログ

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旅先でふらりと入る地元居酒屋に憧れるなぁ~-太田和彦「ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇」

本書は、日本全国の居酒屋を巡り歩く居酒屋紀行エッセイシリーズの第三弾になります。第一弾は立志編、第二弾は疾風編です。

ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫)

ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫)

 

現在、立志編、疾風編、望郷編の3冊とも絶版のようで、Amazonでの取り扱いもありません。ただ、自選版が出ているので、ご購入はぜひそちらで。

自選 ニッポン居酒屋放浪記 (新潮文庫)

自選 ニッポン居酒屋放浪記 (新潮文庫)

 

望郷編で訪れるのは、高松、那覇、仙台、熊本、壱岐、札幌、名古屋、博多、会津、そして神戸。最後に訪れた神戸は、阪神淡路大震災後の力強く復興した神戸です。著者が、震災前から通い続けていた名店は、震災のがれきから立ち上がり、以前と変わらぬ場所で店を再開していて、そのことに読んでいるこちらも感激してしまいます。

太田さんは、「ニッポン居酒屋放浪記シリーズ」を通して、北海道から沖縄まで離島も含めて日本中を飲み歩いてきました。その成果は、その後の一連の著書やCSチャンネル、BSチャンネルでご本人が出演されている全国居酒屋めぐりの旅番組などに引き継がれて、今では太田さんのライフワークになっています。

太田さんの著書や出演番組をみていると太田さんの人柄がにじみ出ていて、心が癒やされるような気がします。こうした太田さんの人柄については、本書の解説で友人でもある作家椎名誠さんがこう評しています。

そういう我がバカ酒呑み集団に太田和彦が参入してきたのはいつのころであったろうか。
ふと気がつくとなんだかしずかな男が一人、一座の端っこの方でひっそりとした微笑みなどを浮かべながらさり気なく盃を口許に運んでいるのだ。ひと口飲むたびに、おおなんということだ、この人はそれをしみじみ味わっているように見える。

(中略)

で、あるから、太田和彦の出現は、我等が酒呑み仲間の間にしずかな動揺とおののきと畏敬の念を走らせた。
「おお、あの人は酒を味わって飲んでいるぞ」
「しかもそれが表情に出ているではないか」
「あくまでも落ち着いているぞ」
「あ、こっちをみたぞ」
などなどという驚愕に満ちたざわめきが我等の仲間のうちをさざ波のように走り回り、太田和彦は、まるで我等蛮族が未知の異国の知的な訪問者を迎え入れたような、瞠目すべき新時代の到来をその晩のうちに強烈に見せつけてくれたのである。
        椎名誠巻末解説「背中で酒をやる男」より引用) 

テレビ番組の中でも、椎名誠さんの言う太田和彦さんの落ち着いた所作は随所に現れています。

地元の居酒屋に「ごめんください」とスマートに入っていき、店主と一言二言会話を交わす。そして、店のつくりをぐるりと見回し、燗酒を頼み、店主自慢の肴に舌鼓を打つ。その一連の流れのなんともいえないスマートさ。紳士の酒とはこういうことをいうのだろうな、とうっとりしてしまいます。

太田さんのようにスマートな酒呑みになりたいな、と憧れる読者や視聴者はきっとたくさんいるのでしょう。私もそんな中のひとり。ふらりと日本を旅して、その土地にある居酒屋の暖簾をくぐる。そんな素敵な楽しみ方をしてみたいと思ったりします。