タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

人間、しっかり食べてれば頑張れる!-柚木麻子「ランチのアッコちゃん」

先日、柚木麻子さんが登壇するトークイベントに行ってきた。ちょうど、シリーズ続編にあたる「3時のアッコちゃん」が発売された日で、トークテーマは「本を味わう」と題して、料理やお菓子が登場する本を柚木さんともうひとりのゲスト(パンとお菓子の研究家であるムラヨシマサユキさん)が、それぞれに持ち寄って紹介するという内容だった。
ランチのアッコちゃん

ランチのアッコちゃん

 
ランチのアッコちゃん

ランチのアッコちゃん

 

「アッコちゃんシリーズ」の第1作が、本書「ランチのアッコちゃん」だ。“食べること”をテーマに、いろいろと悩み苦しんでいても、食べることが元気と活力を生むことを伝える。それが本書のコンセプトなのだと思う。

小さな出版社で派遣社員として働く美智子は、恋人との関係が思うようにいかず悩む日々。派遣ゆえの薄給だからランチはいつも手作りの弁当を持参しているが、それも食べる気がしない。そんな美智子に部長であるアッコちゃんからある提案が持ちかけられる。それは1週間、美智子が毎日アッコちゃんに弁当を作ってくるのと交換に、美智子はアッコちゃんがランチに利用する店で彼女がいつも食べる料理を食べること。不可思議な話といぶかりながらも美智子はそれを承知し、交換ランチの1週間が始まる。美智子はアッコちゃんの行きつけの店を訪れるごとに、彼女の人望の厚さと男前な性格に圧倒され、些細なことで思い悩むばかりの自分を見つめ直す。

表題作である「ランチのアッコちゃん」は、美智子という女性の再生と成長を描き、そこに手を差し伸べるのがアッコちゃんの存在である。作中でもあるように、“アッコちゃん”という名前と男前な性格から颯爽としてスマートなキャリウーマンがイメージされる。もしドラマ化されるとしたら、アッコちゃん役は江角マキコとか天海祐希といったところがキャスティングされそうだ。

本書には、全部で4編の短編が収録されているが、美智子とアッコちゃんの関係を描くのは、「ランチのアッコちゃん」と「夜明けのアッコちゃん」の2編。その他2編にはアッコちゃんと美智子は表立って登場しない。一瞬見切れる感じで登場する程度だ。

第3話の「夜の大捜査線」は、高校時代にやんちゃしたものの、今では合コンもあまり楽しめなくなったOLが、偶然に高校の生活指導教諭と再会し、彼が追いかけている現役不良高校生を一緒に探す羽目になるという物語。

第4話の「ゆとりのビアガーデン」は、仕事一筋で余裕のない社内ベンチャー企業の社長が、自分が馘首にしたかつての女子社員からビジネスに対する真摯な考え方を学ぶことになるストーリー。自分の価値基準だけで生きてきたガムシャラ世代の代表である社長と、マイペースに事を捉えるゆとり世代の代表であるレミを対比させることで、働くことの楽しみ方を考えさせるこの短編は、本書全体を通じてもっとも印象深い作品である。

本書は、ユーモアを主体とした軽めの作品に思えるが、各話はそれぞれに考えさせられる内容になっている。対人関係、成長に伴う葛藤や苦悩、他人を見る目と仕事に対する真摯な姿勢。読み終わった時にきっと何か得るところがあるような作品だと思う。

3時のアッコちゃん

3時のアッコちゃん