まず表紙になっている若かりし頃の加賀まりこのコケティッシュな魅力にグッと心を掴まれる。そして、裏表紙には坂本龍馬に扮した原田芳雄が、短銃を構えてニヒルな笑みを浮かべる。もうそれだけで、60年代~70年代の日本映画の華やかさが目に浮かぶようではないか。
鮮烈! アナーキー日本映画史1959-1979【愛蔵版】 (映画秘宝COLLECTION)
- 作者: 映画秘宝編集部
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2013/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書で取り上げられている映画は、黒澤映画や小津作品ようなメジャー級の日本映画ではない。ここにラインナップされた映画は、本書のタイトルを借りるならば『アナーキー』な映画たちである。
それは、表紙にもなっている加賀まりこの「月曜日のユカ」であり、60年代の東映任侠映画であり、70年代のピンク映画路線や「仁義なき戦い」を嚆矢とする実録ヤクザ映画から「トラック野郎」へと続く娯楽に徹した映画の数々なのである。
本書で紹介されている作品のほとんどは、私が生まれる前の作品であり、リアルタイムで見たことのない作品である。中にはソフト化されていない(できない)作品もあって、今となっては見たくとも見ることができない幻の作品もある。それだけに、個々の作品がとても魅力的に見えてくるし、監督、俳優たちが個性的なキャラクターに思われる。
「座頭市」や「兵隊やくざ」、「悪名」の主役俳優である勝新太郎は、私の記憶の中では、ハワイでパンツにコカイン隠してて捕まっちゃった人でしかなく(「天才勝新太郎」(文春新書)は必読!)、「眠狂四郎」や「陸軍中野学校」で知られる二枚目俳優市川雷蔵は、私が生まれる前に鬼籍に入っている。もはや、すべてが伝説なのだ。
本書から浮かび上がってくるのは、60年代後半から70年代半ばにかけて映画が次第に斜陽化していく中で、各映画会社がエロに走り始め、にっかつロマンポルノを経て角川映画が登場し、映画配給スタイルの変革へと繋がっていく時代に現れた作品の先鋭性と、この何でもアリな時代に登場して80年代以降の映画界を支えることになる新進監督の存在ではないだろうか。こうした、時代の境目に生まれたパワーが、その後の映画界を支えていったということなのだろう。
いまや映画は娯楽の中心ではなくなった。公開中の映画を映画館に見に行くことが珍しくなり、制作者も映画ロードショーでの興行収入ではなく、メディアミックスによる展開やソフト化までを視野に入れて算盤を弾いている。テレビの出現、ビデオの出現、DVDにBlu-Ray、そしてネット配信と、多くの人たちにとって映画館に映画を観に行くという理由はなくなっている。
「映画館で高い金払って見るよりもレンタルでいいじゃん」という感覚。そんな感覚なんて持ちあわさず、誰もが映画館に足を運んでいた時代にはこんなパワフルでアナーキーな映画が作られていたのだ。それを知るだけでも本書には十分な価値がある。
日活100周年邦画クラシック GREAT20 月曜日のユカ HDリマスター版 [DVD]
- 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
- 発売日: 2011/10/04
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