タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

こじらせ男子の妄想全開。その先にあるのは?-ロバート・クーヴァー「ユニヴァーサル野球協会」

いつの時代もいくつになってもこじらせちゃう人ってのはいるもんでしてね。

ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)

ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)

 

本書の主人公ヘンリーもこじらせちゃった人のひとり。彼は、自分で考えた野球ゲームを楽しむのが大好きな男。でも、このゲームが実に奥深いというか凝りまくっている。サイコロを転がして、その出目に応じてアウトとかヒットとかが決まる仕組みなんだけど、子供の頃に学校の休み時間とか、授業中の暇な時間とかに鉛筆転がしてやったレベルのゲームとは雲泥の差なんである。

ヘンリーは、架空の野球リーグ「ユニヴァーサル野球協会」を組織していて、リーグ戦が繰り広げられている。そのリーグ戦で、ある日すごい奇跡が起きる。パイオニアズの新人投手デイモンが完全試合を達成するのだ。もう、ヘンリーの興奮は最高潮。バーに繰り出して祝杯をあげ、店であった女を自宅に連れ帰ってベッドを共にした挙句に、翌日は会社を無断欠勤しちゃうくらいである。一応、断っておくけど全部架空のゲームの中での出来事であって、つまりヘンリーはそれほど自分の考えたゲーム世界にハマり込んでいることになる。

で、問題はその次。完全試合を達成したデイモンが次の出場試合で打席に立った際にビーンボールを喰らい、そのまま死んでしまうのだ。将来を有望視され、完全試合も達成した新人投手に突然の死は、ヘンリーにとてつもない衝撃を与える。そこから、ヘンリーのリアルな世界は次第に崩壊していくのである。

全部ゲームの世界、全部ヘンリーの妄想世界。それなのに、その世界に没頭してしまったヘンリーにとっては、ゲームの世界がもはや現実。会社に行っても考えるのはデイモンの死と、それに伴って混乱するユニヴァーサル野球協会のことばかり。とても仕事は手につかず、ミスを連発するし遅刻早退は当たり前になっていく。いやいや、混乱しているのはヘンリーの頭の中のこと。完全試合も選手の事故死もユニヴァーサル野球協会の混乱もヘンリーの脳内で繰り広げられる妄想のシナリオなのである。

完全にこじらせちゃったヘンリーが最後にどのような顛末を迎えるのかは、実際に本書を読んで確認してほしい。そのラストを幸せと見るか不幸と見るかは読者の感じ方次第だと思う。私は、現実世界での不幸を妄想の中に逃げこむことで解決することは、その人にとっての幸福と考えれば否定出来ない。何がその人にとって幸せなのかを最後にじっくりと考えることができる小説だと思う。