タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

紹介されている作品のすべてがどストライク!-「少年少女昭和ミステリ美術館」

昭和に生まれ育った私にとって、学校図書室で出会った本の数々が今に至る読書遍歴のスタートラインであったと思う。そんな昭和世代の我々世代にとって懐かしい気持ちになる本が本書「少年少女ミステリ美術館 表紙で見るジュニア・ミステリの世界」である。 

本書は、昭和20年代から50年代くらいにかけて各社から出版されていたジュニア向けのミステリ叢書シリーズの表紙を一堂に会した、まさに美術館と呼ぶにふさわしい1冊である。

偕成社ポプラ社といった出版社から出ていた、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズや名探偵ホームズ、怪盗ルパンのシリーズは、当時の小学生の心を鷲掴みにしたものだ。図書室にある本は歴代の読書好き少年少女によって何百、何千と貸し出され、背表紙がボロボロになっていた本も珍しくなかった。それでも、子供たちは競うように本を借りたものである。私がそんな子供のひとりだった。

昭和50年代には、テレビが当たり前の存在であったが、やはり読書もテレビと並ぶ娯楽であったように思う。それは、当時のテレビが現在のようにひとりに1台の存在ではなく、夕食後の家族の団欒にみんなで観るものであったからだろう。ちなみに私は子供の頃にあまりテレビを見ていた記憶がない。

本書には、定番の乱歩、ホームズ、ルパン以外に様々なジュニアミステリ叢書が紹介されている。編者の解説によれば、もっともジュニアミステリ叢書としてシリーズに入っている小説はガストン・ルルーの「黄色い部屋の謎」だそうだ。これはちょっと意外だった。

懐かしい思い出に関するエッセイを寄せたメンバーも豪華だ。有栖川有栖恩田陸といった現在第一線で活躍するミステリ作家は、やはりジュニアミステリシリーズでミステリ小説の面白さに目覚め、ついにはミステリ作家を職業としてしまった。辻真先は自らもジュニアミステリを書いていた経験を書いている。あかね書房の叢書シリーズ企画者である内田庶は、親子向けの読書講座を行った時のエピソードとして、母親たちがジュニアミステリを子供たちが読むことを悪と考えていたことを語っている。それはまさに、現代の母親たちが子供が長時間ゲームにのめりこむことに良い顔をしないのに通ずる。いつの時代にあっても、子供の心を掴む娯楽は親から見れば阻害要因としかうつらないのである。

現代は様々な娯楽が溢れていて、おそらく十数年後に懐かしむようなものは存在していないのかもしれない。大量消費社会の中で思い出に刻まれるものがわずかでも存在していることの幸福を、本書によって感じられたような気がする。