ガタガタ書評ブログ

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実験的文学の目指したところ-ジョルジュ・ペレック「煙滅」

本書は1969年に書かれたフランスの小説である。著者は、本書を執筆するにあたってある制約を課した。それは、フランス語で最も頻繁に使用される文字“e”を一切使用しないということ。フランス語において“e”を使わないということは、英語でいえば定冠詞である“a”や“the”を使わないというのと同義であり、フランス語で女性を表す“le”も使えないというある意味無謀とも思える制約である。

 

原著の刊行から約40年を経て、本書の日本語訳が発刊されることになった。訳者が日本語訳にあたって課したのは、い段の文字を一切使用しないというものだった。い段(特に“い”)は日本語で使用される頻度の高い文字である。

 

ジョルジュ・ペレックは、なぜこのような制約のある実験的な小説を書いたのか。彼は、1960年に設立された文学グループ「ウリポ」のメンバーであった。「ウリポ」は、様々な技巧を用いた実験的な文学に挑戦する作家集団であり、ペレックの「煙滅」のように特定の文字を用いずに小説を書いたり、ある一定の法則によって最初に書いた文章の単語を国語辞典の別の単語に置き換えるといった実験的手法で文学作品を成立させることを思考し続けた集団である。

 

本書の内容に触れておこう。本書はある意味ミステリーの範疇に分類される小説である。まず登場人物のひとりが不眠症に悩まされるところから物語は始まる。やがてこの人物が失踪し、友人たちにあてて謎めいた手紙が届く。彼らは失踪事件の謎を追うことになるが、関係者が次々と不審な死を遂げる。次第に彼らは、過去のある事件と一族の風習の謎へと導かれていく。そして、登場人物全員を巻き込んだ驚愕のラストが待ち受ける。

 

小説の内容としても上等な部類に入るのだが、やはり話題は文字の制約に集中する。読んでいくと、い段を使えないことで生じる様々な苦労が散見される。あっさりと解決しているところもあるが、やや苦しいところもあり、無理を感じるところもいくつかあったりする。それでも、最後まで制約の中で訳しきった訳者・塩塚氏の業績は素晴らしい。このような実験小説ははじめて読んだが、前述のような軽い違和感を感じる部分はあったものの全体的にはまとまった作品になっていると感じた。今後、ウリポグループが理想としたレーモン・クノーなどの実験的文学作品にもチャレンジしてみようと思う。

 

煙滅 (フィクションの楽しみ)

煙滅 (フィクションの楽しみ)

 

  

文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

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