ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

海外文学

【書評】チェーホフ著/沼野充義訳「[新訳]チェーホフ短篇集」(集英社)- #はじめての海外文学 フェアVol.2「ビギナー篇」の1冊。ドストエフスキーやトルストイの重厚長大さとは異なるユーモア短編の妙がチェーホフの魅力

新訳 チェーホフ短篇集 (集英社文芸単行本) 作者: アントン・チェーホフ 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2015/02/06 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 新訳 チェーホフ短篇集 作者: アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ,沼野充義 出版社/…

【書評】ノダル・ドゥンパゼ「僕とおばあさんとイリコとイラリオン」(未知谷)-大好きなおばあさんとイリコとイラリオンと過ごした日々

僕とおばあさんとイリコとイラリオン 作者: ノダルドゥンバゼ,Nodar Dumbadze,児島康宏 出版社/メーカー: 未知谷 発売日: 2004/02 メディア: 単行本 クリック: 5回 この商品を含むブログ (6件) を見る (ドアをノックする音。ひとりがけのソファから老人がゆ…

【書評】デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(小学館)ー育児(ただしロボット)はダメ男を成長させる

ロボット・イン・ザ・ガーデン 作者: デボラ・インストール 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2016/06/24 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ロボット・イン・ザ・ガーデン (小学館文庫) 作者: デボラインストール,Deborah Install,松原葉子 出…

【書評】リンド・ウォード「狂人の太鼓」(国書刊行会)ー120枚の木版画によって紡ぎ出される読者の想像力をかりたてる作品

狂人の太鼓 作者: リンドウォード,Lynd Ward 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2002/10 メディア: 単行本 クリック: 8回 この商品を含むブログ (13件) を見る すべては1枚の木版画からはじまる。

【書評】鄭泳文「ある作為の世界」(書肆侃侃房)−あるがまま、見たままをただ書き綴る。ただそれだけが面白い

ある作為の世界 作者: 鄭泳文,奇廷修 出版社/メーカー: 書肆侃侃房 発売日: 2016/07/09 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 鄭泳文(チョン・ヨンムン)による本書「ある作為の世界」は、彼が大山文化財団という団体の支援を受け…

【書評】ドナ・タート「ゴールドフィンチ(2)」(河出書房新書)−母を失った少年の前に、失踪中だった父が突然現れた。少年は、父に引き取られラスベガスで暮らすことになるのだが…

ゴールドフィンチ 2 作者: ドナ・タート 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2016/08/05 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ゴールドフィンチ 2 作者: ドナ・タート,岡真知子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2016/07/26 メディア:…

【書評】ペーター・シュタム「誰もいないホテルで」(新潮社)-美しい文章(美しい翻訳)に癒やされる

小説にはいろいろなタイプがあって、プロットの妙で読者を引きつける作品もあれば、キャラクターの魅力や会話の面白さでページをグイグイと読み進めてしまう作品もある。 文章が美しい小説というのも、さまざまに存在する小説のタイプのひとつだと思う。書か…

【書評】ハラルト・ギルバース「オーディンの末裔」(集英社)-「ゲルマニア」の続編。ドイツの敗色濃厚な中、夫殺しの嫌疑を駆けられた友人を救うためにオッペンハイマーは奔走する

ハラルト・ギルバースのデビュー作「ゲルマニア」を読んだのは1年少し前、2015年8月のことだ。ナチス政権下のドイツでユダヤ人の元刑事オッペンハイマーが、ナチス将校フォーグラー大尉の命令で残忍な連続猟奇殺人事件の捜査に挑むという作品で、ユダヤ人と…

【書評】阿部公彦/阿部賢一/楯岡求美/平山令二「世界の文豪の家」(エクスナレッジ)-あの名作はこの家で生まれた。環境が作品のベースとなり、傑作を生み出すのだと感じさせてくれる写真集

世界の文豪の家 作者: 阿部公彦,阿部賢一,楯岡求美,平山令二 出版社/メーカー: エクスナレッジ 発売日: 2016/09/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 紹介されている様々な文豪の家を見ていると、その作家が暮らした環境が作品…

【書評】ドナ・タート「ゴールドフィンチ(1)」(河出書房新社)-爆弾テロで母親を失った少年は、1枚の絵とともに波乱万丈の運命を生きる。大長編小説の幕開けとなる1冊

ゴールドフィンチ1 作者: ドナ・タート,岡真知子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2016/06/25 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (1件) を見る ゴールドフィンチ 1 作者: ドナ・タート 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: …

【書評】都甲幸治・他「世界の8大文学賞~受賞作から読み解く現代小説の今」(立東舎)-世界はこんなにも文学賞で溢れている

書店に行って、「さて、何か面白そうな本はないだろうか」と探すときに参考とする情報で、「○○賞受賞作!」とか「△△賞最終候補入り!」という帯の惹句で作品を選ぶことがある。日本でいえば芥川賞や直木賞が興味を引くし、海外文学ならばノーベル賞やブッカ…

【書評】ノヴァイオレット・ブラワヨ「あたらしい名前」(早川書房)-子どもたちの無邪気さというフィルターを通して描かれるジンバブエの現実。軽妙さが逆にその苛酷さを物語るような気がする。

ジンバブエは、アフリカ大陸の南部に位置する国である。周囲を南アフリカ、モザンビーク、ザンビア、ボツワナと隣接している。 私を含め、日本人の多くはジンバブエという国のことをほとんど知らない。私がジンバブエについて唯一知っていることは、数年前に…

【書評】アントニオ・G・イトゥルベ「アウシュヴィッツの図書係」(集英社)ー《アウシュヴィッツ》という絶望の中で、《本》という希望を守り続けた図書係の少女

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所という場所と、そこで行われていた残虐非道な行為と囚われたユダヤ人たちの絶望の日々については、改めてここで説明する必要はないと思う。毎日、誰かが命を失う。残された人たちは常に「次は自分」という恐怖と絶望…

【書評】ボフミル・フラバル「厳重に監視された列車」(松籟社)-ナチス・ドイツ占領下のチェコ。とある駅を舞台に描かれる人間の本質

ボフミル・フラバルという作家の作品を読むのは、本書「厳重に監視された列車」が初めてだ。 厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション) 作者: ボフミル・フラバル,飯島周 出版社/メーカー: 松籟社 発売日: 2012/09/14 メディア: 単行本(ソフトカバー…

【書評】ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」(早川書房)-むかしむかし、遠い宇宙でひとりの少女が新しい命と出会った

人類が宇宙へと足を踏み出してから半世紀以上のときが過ぎた。 たったひとつの冴えたやりかた 改訳版 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,浅倉久志 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2008/08/22 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 10人 クリ…

【書評】クラスナホルカイ・ラースロー「北は山、南は湖、西は道、東は川」(松籟社)-ハンガリー人作家を魅了した街・京都

京都という場所は、訪れる人を魅了する街だ。それは、私たち日本人だけではなく、世界から訪れる外国人観光客にとっても同様で、京都は国際的な観光都市でもある。 北は山、南は湖、西は道、東は川 作者: クラスナホルカイラースロー,Krasznahorkai L´aszl´o…

【書評】ラ・フォンテーヌ「ラ・フォンテーヌ寓話集」(洋洋社)-シンプルかつユーモアのある物語が教えてくれる人間の弱さと面白さ

「すべての道はローマに通ず」 ラ・フォンテーヌ寓話 作者: ラ・フォンテーヌ,ブーテ・ド・モンヴェル,大澤千加 出版社/メーカー: ロクリン社 発売日: 2016/04/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る この有名な言葉を残したのが、17世紀のフラン…

【書評】エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」(新潮社)-イスラエルに暮らす作家がユーモラスに描き出す日常と戦争の影

中東地域は、争いの絶えない地域であるが、イスラエルは間違いなくその中心にあって、争いの火種となっている場所だと思う。1948年に独立が宣言されて以降、第一次中東戦争が勃発し、第二次、第三次、第四次と周辺国との戦争を繰り広げてきた。1993年には、…

【書評】フェルディナント・フォン・シーラッハ「テロ」(東京創元社)-7万人の命を救うために164人を乗せた旅客機を撃墜した空軍少佐は英雄なのか罪人なのか

多数を救うために少数を犠牲にする行為は正義なのか? テロ 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2016/07/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る テロ 作者: フェルディナント・フォ…

【書評】アティーク・ラヒーミー「悲しみを聴く石」(白水社)-アフガニスタンに生まれフランスで作家となった著者によって描かれる静謐な物語

アフガニスタンは、長く激動の場所として歴史を刻んできた。少なくとも、私がアフガニスタンという国を知って以来、現在に至るまでアフガニスタンに関する平和的な話はほとんど聞いたことがない。 悲しみを聴く石 (EXLIBRIS) 作者: アティークラヒーミー,Ati…

【書評】ジュリー・オオツカ「屋根裏の仏さま」(新潮社)-今からおよそ100年前に海を渡った女性たちがいた。“写真花嫁”と呼ばれた女性たちの苦難の日々を描く秀作

明治から大正、昭和の初期までの間に、多くの日本人が太平洋を渡って、遠いアメリカへと移住したという。彼らは、言葉もよくわからない異国の地で、外国人(特にアジア人)であることによる差別に直面しながら、持ち前の勤勉さで少しずつ、その位置を確保し…

【書評】ヨハンナ・シュピリ「ヨハンナ・シュピリ初期作品集」(夏目書房新社)-「アルプスの少女ハイジ」原作者のデビュー作を含む初期の作品集

ヨハンナ・シュピリという作家をご存知だろうか。 ヨハンナ・シュピリ初期作品集 作家の名前は知らなくても、彼女の作品にはなじみがあると思う。 「アルプスの少女ハイジ」だ。私の年代だと、小説作品というよりは、テレビアニメの方がなじみ深い。最近では…

【書評】カレン・ラッセル「レモン畑の吸血鬼」(河出書房新社)-著者はよく「どうしてこんなアイディアを思いつくのか」と聞かれるらしい。聞きたくなる気持ちがよくわかる

吸血鬼って、どういうイメージだろう? レモン畑の吸血鬼 作者: カレン・ラッセル,松田青子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2016/01/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る 永遠の命を有し、美女の生き血をすすり、太陽の光を嫌い…

【イベント】第二回日本翻訳大賞授賞式に参加してきました

さる4月24日(日)に、第二回日本翻訳大賞の授賞式が日比谷図書文化館コンベンションホールにて開催された。第一回に続き、今回も参加してたので、当日の模様をレポートする。

【書評】トレヴェニアン「パールストリートのクレイジー女たち」(ホーム社)−トレヴェニアンの遺作にして自伝的小説

年末の恒例となった「このミステリーがすごい!」がスタートしたのは1988年で、その第1回めの海外ミステリー第1位になったのが、トレヴェニアン「夢果つる街」だった。それから約30年、トレヴェニアンの遺作となった自伝的小説が本書「パールストリートのク…

【書評】フェルディナント・フォン・シーラッハ「カールの降誕祭」(東京創元社)-クリスマスだからって、誰もが幸せなわけじゃない

4月なので完全に時期外れだが、フェルディナント・フォン・シーラッハ「カールの降誕祭」はクリスマスの本である。 カールの降誕祭(クリスマス) 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2015/11/12 メディア: Ki…

【書評】キルメン・ウリベ「ムシェ 小さな英雄の物語」(白水社)ー戦争は英雄を作り、英雄を殺す。そこには人間の物語がある

本書のラストから引用する。 2010年11月28日、僕たちの娘アラネが生まれた。2011年4月24日、僕の友人アイツォル・アラマイオが亡くなった。一緒に過ごしたほとんど最後の機会となったある日、アイツォルは僕に言った。「お前は英雄の物語を書くべきだよ」「…

【書評】ヘニング・マンケル「霜の降りる前に」(東京創元社)ーヴァランダーシリーズ初読み。このシリーズは最初から読むことをオススメします

スウェーデンの作家ヘニング・マンケルによる警察小説「刑事ヴァランダーシリーズ」の日本翻訳最新刊である。実は本書が、ヴァランダーシリーズ初読み。 霜の降りる前に〈上〉 (創元推理文庫) 作者: ヘニング・マンケル,柳沢由実子 出版社/メーカー: 東京創…

【書評】パトリシア・ハイスミス「キャロル」(河出書房新社)−美しき年上の女性キャロルに魅せられた18歳の無垢な少女テレーズ。禁断の関係が生み出す美しき愛の形

このレビューを書いているのは、2016年2月29日であり、第88回アカデミー賞の授賞式が、ハリウッドで開催される日である。 www.wowow.co.jp パトリシア・ハイスミス「キャロル」を原作とした映画「キャロル」を映画館で鑑賞してきた。キャロルを演じるのは、2…

【書評】都甲幸治他「きっとあなたは、あの本が好き。~連想でつながる読書ガイド」(立東舎)-大好きな本について語り合うことの楽しさ

今、読書会がちょっとしたブームになっているらしい。本が大好きな人たちが集まって、ひとつの本について語り合ったり、テーマにそって話し合ったりするのだそうだ。うん、それは楽しそう。 オフラインでの読書会に限らず、ツイッター上でのやりとりや、「読…

【書評】オルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」(光文社古典新訳文庫)-大量生産・大量消費・フリーセックス。発展の先に待ち受けるディストピア

『すばらしい新世界』の基本的なテーマとなっているのは故人と社会の軋轢で、そこに大量生産・大量消費を中心とする社会の興隆と優生学の不気味な発達を背景に、科学と政治が結びついた場合の危険性、特に官僚組織がそこに関わった場合の危険性が描かれてい…

【書評】ニコラス・ブレイク「野獣死すべし」(早川書房)−息子を亡くした父親の復讐劇。構成の妙が冴える古典ミステリーの傑作

誰かを殺したいと考えたことがあるだろうか? 野獣死すべし (ハヤカワ・ミステリ文庫 17-1) 作者: ニコラス・ブレイク,永井淳 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1976/01 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 12回 この商品を含むブログ (11件) を見る 野獣…

オ・ジョンヒ「鳥」(段々社)-訳ありな人たちが暮らす長屋は姉弟にとっての鳥籠。自由であるかのように見えて囚われている小鳥たち

オ・ジョンヒ「鳥」は、11歳の姉・宇美(ウミ)と9歳の弟・宇一(ウイル)の物語。姉・宇美の視点で語られる。 鳥 (“アジア文学館”シリーズ) 作者: オジョンヒ,文茶影 出版社/メーカー: 段々社 発売日: 2015/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る…

イアン・マキューアン「未成年」(新潮社)-信仰という危うさを抱えた少年と家庭という危うさを抱えた女性裁判官の危うく静かな関係

世の中には、様々な宗教があり、それぞれに強い信仰心を有する信者がある。ときに、それは過激な方向に進み、悲劇を生み出すことがある。一方で、信仰がその人の心を平穏をもたらすこともある。 未成年 (新潮クレスト・ブックス) 作者: イアンマキューアン,I…

ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」(文春文庫)-戦慄の猟奇連続殺人の残酷さが、ラストに待ち受ける衝撃を助長させる。はっきりいって、かなりのイヤミス

2014年の翻訳ミステリーは、1冊の本が話題と評価を独占した。ピエール・ルメートル「その女アレックス」である。 「その女アレックス」は、パリ警視庁犯罪捜査部の警部であるカミーユ・ヴェルーヴェンが活躍する作品だが、そのカミーユ・ヴェルーヴェン警部…

セサル・アイラ「文学会議」(新潮社クレスト・ブックス)-1回読んだだけじゃ理解できないから、2回以上読むのがオススメです

2015年の読み納めで、セサル・アイラ「わたしの物語」を読んだ際に、「2016年の読み初めには、アイラの『文学会議』を読もう」と宣言したとおり、2016年のレビュー第1号は、セサル・アイラ「文学会議」です。 文学会議 (新潮クレスト・ブックス) 作者: セサ…

読み進めていく中で、私はこの不思議な感覚に翻弄され、そして魅せられていった-セサル・アイラ「わたしの物語〈創造するラテンアメリカ2〉」(松籟社)

ガルシア・マルケスやバルガス・リョサなど、南米の作家の小説は面白い。 「マジック・リアリズム」と称されるその世界観は、読み手を翻弄し、困惑させる。時間軸、空間軸が歪み、ストーリーは展開しつつ崩壊していく。 わたしの物語 (創造するラテンアメリ…

母国語とは違う言葉で表現をするということ-ジュンパ・ラヒリ「べつの言葉で」

私は、日本で生まれて日本で育ってきた。《日本人》であることが自らのアイデンティティである。 日本人として育ってきた中で、日本語を母語としてきた私は、恥ずかしながら英語をはじめとする他国の言語を話すことができない。日本語で話し、日本語で考える…

《人形遣い》と呼ばれる猟奇殺人犯を追い詰める孤高の事件分析官-ライナー・レフラー「人形遣い~事件分析官アーベル&クリスト」

小説の中でしか起こらない(起こってほしくない)犯罪がある。例えば、猟奇的な殺人事件などは、現実に起きてほしくないタイプの犯罪の代表で、ミステリー小説の中であれば許される(いや、犯罪としては許されないよ、当たり前だけど)題材であろう。 人形遣…

飛行機事故で生き残った奇跡の子供を巡る謎。18年目に明かされる真実-ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」

最近は、北欧ミステリ、ドイツミステリなど、英米以外のヨーロッパ諸国から発信されるミステリに魅力的な作品があって、注目されている。例えば、昨年(2014年)の翻訳ミステリでは、ピエール・ルメートル「その女、アレックス」があらゆるランキングを総ナ…

なんだかアメリカらしい小説だなぁ、という感想です-ドルトン・フュアリー「極秘偵察」

元アメリカ陸軍特殊部隊デルタ・フォース指揮官という経歴をもつ著者による戦場アクション冒険小説。いや、もう、なんというか、その、実にアメリカらしい小説である。 極秘偵察 作者: ドルトンフュアリー 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2014/09/30 メ…

《グレイマン》と呼ばれる冷酷無比な殺し屋は少女との約束を守るために苦難の道をひた走る-マーク・グリーニー「暗殺者グレイマン」

冒険アクション小説には、あまり積極的には関わってこなかった。あまり暴力的なことは好きではないという理由もあるが、これまでに冒険アクション小説であまり面白い作品に巡りあってこなかったというのもある。どうも、波長があっていないのかもしれない。 …

まるで翻訳小説を読んでいるような作品。日本の若手作家がここまで第二次大戦時のヨーロッパ戦争を描けるのかという驚きと期待-深緑野分「戦場のコックたち」

本書は、著者名を伏せて読んだら、海外文学の翻訳書と思い込んでしまうかもしれない。本書に描かれる第二次世界大戦のヨーロッパ戦線における苛烈な戦場の描写は、アメリカかイギリス出身のベテラン作家の手によるものと言われても納得してしまうほどにリア…

いつだって、戦争の犠牲になるのは無垢な子供たちなのだ-スヴェトラーナ・アクレシエーヴィチ「ボタン穴から見た戦争~白ロシアの子供たちの証言」

日本人の私からすると、第二次世界大戦におけるソヴィエトというのは、終戦間際になって突然日本への宣戦を布告して満州国などに攻め込み、多数の日本人捕虜をシベリアに抑留して強制労働につかせた国であり、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏した後も樺太や…

脚本執筆に行き詰まった作家は、誰かの話を聞くことでひとつの映画を完成させた-ミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」

ミランダ・ジュライは、映画監督であり、脚本家であり、女優であり、アーティストであり、作家である。最近では、スマホアプリを手掛けていて、「somebody」というちょっと風変わりなコミュニケーションアプリを手がけている。 wired.jp SOMEBODY - MIU MIU …

ひとつひとつの作品が、どれも強く心に刺さる。これは、私の中で間違いなく今年のマイ・ベストにラインナップされる1冊となる-ケン・リュウ「紙の動物園」

たったひとつの言葉、たったひとつの文章、たったひとつの物語が、読んでいて深く胸に刺さる小説がある。 ケン・リュウ「紙の動物園」は、間違いなく読者に深く強い印象を残す小説だ。 紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者: ケン・リュウ,古沢嘉通,…

2015年ノーベル文学賞作家が綴るチェルノブイリ原発事故で人生を翻弄された無辜の人々の証言−スベトラーナ・アレクシエービッチ「チェルノブイリの祈り~未来の物語」

今年(2015年)のノーベル文学賞は、ベラルーシのドキュメンタリー作家・スベトラーナ・アレクシエービッチに決まった。ジャーナリストとしてのノーベル文学賞受賞も、ベラルーシ人としての受賞もはじめてのことである。 不勉強なもので、スベトラーナ・アレ…

足が動かねぇ? 物忘れがひでぇ? それがどうした、四の五の言ってると俺のマグナムが黙ってねぇぜ!−ダニエル・フリードマン「もう過去はいらない」

誰しも、「寄る年波には勝てない」はずである。身体はガタつき、歩くこともままならなくなり、物忘れもひどくなっていく。家族に先立たれることもあるだろうし、古くからの旧友たちも櫛の歯が欠けるようにひとりひとり減っていく。 もう過去はいらない (創元…

人間の暴力性を生々しく描くことで生み出される企みに満ちた世界観-アンソニー・バージェス「時計じかけのオレンジ」

アンソニー・バージェス「時計じかけのオレンジ」は、1962年にイギリスで発表された作品である。だが、小説としてよりは、1972年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の映画の方が印象に深いかもしれない。 時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi…

いつになっても忘れない。遠い子供の頃に体験した様々な思い出たち-リュドミラ・ウリツカヤ「子供時代」

今となっては遠い過去の話だが、時折ふと心に浮かぶ情景というものがある。それは、幼い子供の心に深く刻まれた思い出という宝物だ。 子供時代 (新潮クレスト・ブックス) 作者: リュドミラウリツカヤ,ウラジーミルリュバロフ,沼野恭子 出版社/メーカー: 新潮…