タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ガエル・ファイユ/加藤かおり訳「ちいさな国で」(早川書房)-アフリカのちいさな国で起きた民族同士の対立。荒廃していく国と崩壊していく家族。

 

ガエル・ファイユは、フランス人の父とルワンダ難民の母との間に1982年にブルンジで生まれた。本書「ちいさな国で」は、彼の処女作にあたる。

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ブノワ・デュトゥールトゥル/赤星絵里訳「幼女と煙草」(早川書房)-行き過ぎた社会を痛烈に皮肉った背筋の寒くなるブラック・ユーモア小説

 

「幼女と煙草」のはじまりは、刑の執行を目前にしたひとりの死刑囚をめぐるトラブルで幕を開ける。警察官殺しの犯人として死刑判決を受けたデジレ・ジョンソンは、死刑囚に許される最後の希望として煙草を一服することを要求する。しかし、彼に刑が執行される刑務所のクァム・ラオ・チン所長は苦悩していた。なぜなら、規則として刑務所内は禁煙と定められていたからだ。なんとか別の願いに変えてもらえないかと所長はデジレに告げるが、デジレは最後の一服を要求することは法律で認められていると主張し撤回を拒む。

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本田創/高山英男/吉村生/三土たつお「はじめての暗渠散歩~水のない水辺を歩く」(筑摩書房)-4人の暗渠マニアが『暗渠』の魅力を語り尽くす!初心者を暗渠の世界へ誘います!

 

「暗渠マニアック!」である。

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西崎憲編集「たべるのがおそいvol.4」(書肆侃侃房)-オススメは、宮内悠介「ディレイ・エフェクト」、木下古栗「人には住めぬ地球になるまで」、そして「特集・わたしのガイドブック」

 

巻頭エッセイは、皆川博子の「主さん強おして」。子供の頃に友だちの家で大学生のお兄さんの書棚に並ぶ本に魅せられた記憶。ちょっと背伸びして大人の本を読むワクワク感は本好きなら誰もが味わってきた経験ではないだろうか。

いつもながら創作陣は豪華。宮内悠介、古谷田奈月、木下古栗、町田康といった錚々たる人気作家の作品が並ぶ。どの作品もオススメなのだが、深く印象に残ったという意味では宮内悠介「ディレイ・エフェクト」になる。

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フランチェスカ・リア・ブロック/金原瑞人・田中亜希子訳「ひかりのあめ」(主婦の友社)-#やまねこ20周年 ゆっくりと漂うように描かれるレックスとマリーナの関係。それは許されない禁断の関係。

yamaneko20.jimdo.com

イベントは、翻訳家の金原瑞人さんを中心にやまねこメンバーの宮坂宏美さんと田中亜希子さんが、金原さんとおふたりの関係や〈やまねこ翻訳クラブ〉発足のときに金原さんにお世話になったこと。また、最近では金原さんのホームページの運営をおふたりが担っていることなど、イベントタイトルの通り「意外な関係」がわかる楽しいものだった。その中で、金原さん、宮坂さん、田中さんがそれぞれに翻訳したり、共同(金原さん+宮坂さん、金原さん+田中さん)で翻訳した作品を紹介してくれた中にあった1冊が本書である。

フランチェスカ・リア・ブロック「ひかりのあめ」は、金原さんと田中さんの共訳書。おふたりともが熱愛する作品である。

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キャスリーン・クルル文、ピーター・マローン絵/宮坂宏美訳「なぜカツラは大きくなったのか?~髪型の歴史えほん」(あすなろ書房)-祝! #やまねこ20周年 はカツラ祭り!? 「このハゲェー!」なんて言わないで。カツラと髪型を巡るあれこれがてんこ盛りです!

 

なにやら巻き込まれた感が拭えない(笑)。

「発足20周年を迎えた〈やまねこ翻訳クラブ〉に参加している翻訳家さんたちの訳書をどんどんと読んでお祝いしよう!」というオンライン読書会が、書評コミュニティサイト本が好き!で開催されている。

www.honzuki.jp

その読書会に、私はないとうふみこさん訳のアンドルー・ラング「夢と幽霊の書」のレビューをもって参加した。すると、読書会の主催者からこんな引用ツイートが届いた。

 

この引用ツイートからの一連の流れで、私は『カツラ祭り』に言葉巧みに誘い込まれていた。しかも、最後は訳者自らの甘言である。

 

うーん、どうする?

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村山早紀「百貨の魔法」(ポプラ社)-人はなにかを失う。家族、親友、そして夢。でも、何かを失くしたことで見つかるものがある。それはきっと、星野百貨店にある。

村山早紀「百貨の魔法」を読み終えて、まずそう思った。

創業50周年を迎える星野百貨店は、風早の街の平和西商店街にあって、地域の象徴のような存在の店だ。経営状態は、決して安泰とはいえない。大手百貨店グループの傘下に入って一時は危機をしのいだけれど、今また存続が危ぶまれている。地域の人たちから愛されるこの百貨店をスタッフたちも守りたいと思っているけれど、時代の流れに抗うことは難しい。それでも、スタッフたちは星野百貨店を愛し、お客様のために笑顔を絶やすことはない。だからこそ、星野百貨店は愛される。

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