タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

宮田昇「昭和の翻訳出版事件簿」(創元社)-戦前、戦中、そして戦後。長く日本の翻訳出版に携わってきた著者が記す様々な事件に興味が尽きない

日本の出版界は、海外作品の翻訳に対する守備範囲が広いと思う。小説についてみれば、メインは英語圏の作品になるだろうが、非英語圏(アジア、南米、北欧その他ヨーロッパ諸国、アフリカ)の作品もかなり積極的に翻訳出版されている。

幅広い国や地域、ジャンルの作品が翻訳出版される日本だが、過去には国内、海外で様々な翻訳出版トラブルを起こしてきた。戦前から戦後の昭和期に起きた日本の翻訳出版事件をリアルタイムに経験してきた宮田昇氏が書き記したのが本書「昭和の翻訳出版事件簿」である。

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白央篤司「にっぽんのおにぎり」(理論社)-ニッポン全国、にぎってにぎって47都道府県。意外?納得?不満?あなたの故郷のおにぎりはなんですか?

 

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A・ボグダーノフ、E・ゾズーリャ他/西周成編訳「ロシアSF短編集」(アルトアーツ)-1800年代から1900年前後のロシアSF短編を集めたアンソロジー。ディストピア物から宇宙物まで、意外に王道のSF作品なれど、ロシアらしさも感じられます。

ロシアSF短編集

ロシアSF短編集

  • 作者: アレクサンドル・ボグダーノフ,エフィム・ゾズーリャ,アレクサンドル・クプリーン,ウラジーミル・オドエフスキー,セルゲイ・ステーチキン,西 周成
  • 出版社/メーカー: 合同会社アルトアーツ
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
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ロシアSF短編集

ロシアSF短編集

  • 作者: アレクサンドル・ボグダーノフ,エフィム・ゾズーリャ,ウラジーミル・オドエフスキー,アレクサンドル・クプリーン,セルゲイ・ステーチキン
  • 出版社/メーカー: アルトアーツ
  • 発売日: 2016/11/26
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ロシアの小説というと、トルストイドストエフスキーのように重厚で長大な堅苦しいイメージがあって、それが苦手で読まず嫌いな人も多いと思う。だけど、ユーモラスな作品も多いし、読みやすい作品も多いから、実際に読んでみれば結構面白く読めたりする。ブルガーコフとか。

それでも、『SF作品』となるとあまりピンとこない。ロシアのSF作家といわれて名前があげられる作家も浮かばない。ちなみに、「ソラリス」で有名なSF作家スタニスワフ・レムは、ポーランドの作家であって、ロシア人SF作家ではない。

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温又柔「真ん中の子どもたち」(集英社)-自らの立ち位置(アイデンティティ)を見つめ直すための作品

温 又柔 集英社 2017-07-26
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by ヨメレバ

 

言葉をあまり意識して使ったことがない。私にとって言葉は当たり前のようにそこにあって、無意識に使うものであり意識的に使うものではないからだ。

温又柔「真ん中の子どもたち」には、3人の人物が登場する。主人公であり物語の語り部〈私〉である天原琴子。上海に短期語学留学した琴子と同室になった呉華玲。華玲と同じクラスで学ぶ龍舜哉。上海で中国語を学ぶ3人には、それぞれに台湾、中国の血が流れている。

琴子には、日本人の父と台湾人の母がある。
華玲には、台湾人の父と日本人の母がある。
舜哉の両親はふたりとも中国人だが帰化して日本国籍を有している。

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温又柔「台湾生まれ日本語育ち」(白水社)-家族への愛、台湾への愛、そして日本語への愛。この本には、温又柔さんのたくさんの愛がこめられている

台湾生まれ 日本語育ち

台湾生まれ 日本語育ち

 

 

温又柔さんが登壇する書店イベントに参加したことがあります。5月末に青山ブックセンター本店で開催された「たべるのがおそいvol.3刊行記念トークイベント」でした。

登壇者は温さんの他、作家・翻訳家で「たべおそ」の編集責任者である西崎憲さん、作家の星野智幸さんのお二人でした。

そのイベントで見た温又柔さんの姿は、私に“温又柔”という作家の存在を強く印象づけました。イベントから帰宅後の私はこんなツイートをしています。

 

よく話し、よく笑い、相手の話には「うんうん」と頷きながら聴き入る。本当に文学について話すことが好きな人、それが私から見た温又柔さんという作家の印象でした。

どうして温さんは、そんなに文学が好きなのだろう?
その答えが、本書「台湾生まれ日本語育ち」を読んでわかったような気がします。

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「草獅子vol.1~特集:終末、あるいは始まりとしてのカフカ」(双子のライオン堂)-〈双子のライオン堂〉は東京・赤坂にある本屋さん。その〈双子のライオン堂〉から発刊された文芸誌の創刊号です

草獅子 vol.1(2016)―文学のたのしみを身近に 特集:カフカ

草獅子 vol.1(2016)―文学のたのしみを身近に 特集:カフカ

 

 

東京メトロ赤坂駅から、道順を知っていれば歩いて数分のところに一軒のこじんまりとした本屋さんがあります。

店の名前は〈双子のライオン堂〉といいます。

liondo.jp

本の表紙を模したデザインの扉を開けて店内に入るというスタイルは、まさに「本の扉を開けて、本の世界へと足を踏み入れる」という本好きの心を惹きつけます。“本の世界”に入るときは土足厳禁!ということなのでしょうか。店内には靴を脱いで上がります。

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レーモン・ルーセル✕坂口恭平/國分俊宏訳「抄訳アフリカの印象」(伽鹿舎)-言葉遊びから生まれる創造力とドローイングというイマジネーション!本の世界に没入する贅沢を味わえる一冊

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本を読む贅沢とはなにか?

本を読むことは、私にとっては最高の贅沢だ。物語の世界に没頭し時間の経過を忘れる。ときに物語の世界で迷子になったとしても、自分なりの解釈でページという道なき道を進み、微かに感じられる著者の残した気配を道標として歩みを進める。すると突然目の前に見たことのない景色がパァッと広がる。その瞬間、今まで世界を覆っていた靄がスーッと消えていき、物語のすべてが姿をあらわす。その瞬間を味わうために、私は時間を忘れ、俗世のすべてを忘れる。

これ以上の贅沢があるだろうか?

レーモン・ルーセル「抄訳アフリカの印象」を読むことは、私にとって最高の贅沢だった。

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