タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「望楼館追想」(文藝春秋)-「堆塵館」でその魅力にはまった作家のデビュー作。この物語には様々な《愛》が描かれていると感じた

望楼館追想

望楼館追想

 
望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)

 

 

エドワード・ケアリーという作家のすごさを知ったのは、「アイアマンガー3部作」の第1作「堆塵館」だった。

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ゴミの山の中に建つ「堆塵館」とよばれる屋敷を舞台にした物語は、発想の奇抜さも、ストーリー展開の巧みさも、キャラクターの造形も、すべてが魅力的で、読んでいて時間を忘れさせてくれる作品だった。その終わり方も衝撃的で「堆塵館」を読んだすべての人が「ここで終わるのか!」と驚愕し、第2作となる「穢れの町」の刊行を待ち焦がれることになった。まさか「穢れの町」のラストで同じ驚愕を味わうことになるとは知る由もなく...

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M・R・ケアリー/茂木健訳「パンドラの少女」(東京創元社)-〈飢えた奴ら(ハングリーズ)〉と呼ばれる生ける屍が蔓延する世界で生き延びるための戦いがはじまる

パンドラの少女

パンドラの少女

 
パンドラの少女

パンドラの少女

 

 

物語は異様な光景から始まる。

10歳の少女メラニーは、隔離された施設で独房に暮らしている。他にも同じような子どもたちが、それぞれ独房に暮らす。メラニーたちは常に監視されている。彼女たちが独房を出るときは、頑丈な車椅子に両手足と頭を固定され、身動きができないように拘束される。なぜなら、彼女たちは〈飢えた奴ら(ハングリーズ)〉だからだ。

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エリザベス・ストラウト/小川高義訳「私の名前はルーシー・バートン」(早川書房)-母と娘がはじめて心を通わせた5日間は、彼女の人生の大きな分岐点となった

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

 
私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン

 

 

物語の主人公はルーシーバートン。作家。これは、彼女が入院していたときの、5日間の話。彼女と彼女の母がはじめて心を通わせた5日間の物語。

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松浦理英子「最愛の子ども」(文藝春秋)-松浦理英子が描く愛の形は、どこかいびつで不穏に見える。本書に描かれる少女たちの〈疑似ファミリー〉もやはりいびつで不穏だ。

最愛の子ども (文春e-book)

最愛の子ども (文春e-book)

 
最愛の子ども

最愛の子ども

 

 

松浦理英子が描く愛の形は、いつもどこかいびつで不穏な空気をまとっているように思う。映画化もされた「ナチュラル・ウーマン」は、女性同士の恋愛を赤裸々に描いた小説だし、「犬身」は愛する人の『犬になりたい』と願った主人公が本当に犬になって愛する人に飼われる物語だった。また、「親指Pの修行時代」では、ある日突然足の親指がペニスになってしまった主人公の悲哀をユーモラスに描き出していた。

最新作「最愛の子ども」は、前作「奇貨」からおよそ4年ぶりに発表された作品である。舞台となるのは玉藻学園という私立の中高一貫校。男女共学の学校だが、男子クラスと女子クラスに分かれていて、その女子クラスの生徒たちが主役だ。

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エラ・バーサド&スーザン・エルダキン/金原瑞人&石田文子訳「文学効能事典~あなたの悩みに効く小説」(フィルムアート社)-あなたのその悩み、文学が解決します

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

 

 

人間とは悩む生き物だ。人間関係の悩み、仕事の悩み、恋愛の悩み、病気の悩み、お金の悩み。悩みの種は尽きることがない。

何かに悩んだ時、それを解決してくれる何かにすがりつきたくなる。俗世を離れた遠い場所へ旅したり、セラピストのもとへ通って精神の安定を求めたり、街の占い師の言葉に救いを求めたりする。そんな〈救済〉のひとつに、『本を読んで現実の世界を離れる』という行為もあるのではないか。

「文学効能事典」は、サブタイトルに『あなたの悩みに効く小説』とあるように、様々な人生の悩みを解決する手助けとなる小説を紹介するガイドブックだ。

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谷川電話「恋人不死身説」(書肆侃侃房)- #書肆侃侃房15周年 歌の向こう側に何かが見える。その先に何かがある。そんな気持ちにさせられる歌集

恋人不死身説 (現代歌人シリーズ15)

恋人不死身説 (現代歌人シリーズ15)

 
恋人不死身説 現代歌人シリーズ

恋人不死身説 現代歌人シリーズ

 

 

書肆侃侃房は、様々なジャンルの作品を刊行している。「歌集」はその主流であろう。「現代短歌ロード」というWebページを運営していて、「現代歌人シリーズ」、「新鋭短歌シリーズ」、「ユニヴェール」などの短歌叢書を出版していて、以前レビューをアップしたフラワーしげる「ビットとデジベル」は、「現代歌人シリーズ」の1冊だ。

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谷川電話「恋人不死身説」も、「現代歌人シリーズ」の1冊だ。巻末の解説を、歌人穂村弘が書いている。

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アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳「シャーロック・ホームズの冒険」(東京創元社)-探偵小説のバイブル的作品集。誰もが知ってるに違いないあの作品やこの作品を改めて読み直してみる楽しさ

 

【お知らせ】2017年1月から半年間にわたって書評コミュニティサイト「本が好き!」で開催してきた掲示板企画「古今東西、名探偵を読もう!」は、2017年6月30日をもって終了となります。7月1日以降、書き込みができませんが掲示板のログを閲覧することは可能なので、興味がありましたらアクセスをお願いします。

さて、前回第4長編「恐怖の谷」のレビューをアップしたのが3月上旬のこと。続いていよいよ短編集を読もう!と意気込んではいたのだが、気づけば6月も後半となり、4ヶ月弱が過ぎてしまった。主催している名探偵掲示板も投稿数が減ってきていて、このまま惰性で続けても盛り上がりに欠けそうなので6月末で終了させることとし、それまでに1冊だけシャーロック・ホームズ短編集を読もうと選んだのが第1短編集の「シャーロック・ホームズの冒険」である。

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