タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ニコルソン・ベイカー/岸本佐知子訳「もしもし」(白水社)-男と女の会話のみで構成されるストーリー。洒脱な表現で描き出される変態同士の電話越しのアヴァンチュール

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

前回レビューした「ノリーのおわらない物語」が、私にとって《初ニコルソン・ベイカー》だった。9才の少女を主人公にしたほのぼのした雰囲気の物語。ただ、あの作品はニコルソン・ベイカーとしては異色だったらしい。

s-taka130922.hatenablog.com

 

私がニコルソン・ベイカー読みの2本めとして選んだのは、本書「もしもし」だ。ニコルソン・ベイカーの4作目の作品であり、この作品の次に発表された第5作が「ノリーのおわらない物語」である。

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ニコルソン・ベイカー/岸本佐知子訳「ノリーのおわらない物語」(白水社)-子どもの想像力、子どもの行動力がたっぷりつまった愛情いっぱいの物語

ノリーのおわらない物語 (白水uブックス)

ノリーのおわらない物語 (白水uブックス)

 

 

エレノア・ウィンスロウ(ノリー)は9才の女の子。おかっぱの髪は茶色で、目も茶色。将来の夢は歯医者さんかペーパーエンジニアで、ペーパーエンジニアというのは飛び出す絵本や飛び出すバースデーカードをデザインして作る人のこと。

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アーサー・ビナード「知らなかった、ぼくらの戦争」(小学館)-この国がこの先いつまでも《戦後》である続けるために、私たちは何をすべきだろうか

知らなかった、ぼくらの戦争

知らなかった、ぼくらの戦争

 

 

今年2017年は、戦後72年にあたる。1945年に太平洋戦争が終戦して以降、日本は戦争を起こすことなく72年を過ごしてきた。いわば、72年間平和であったと言うこともできる。

アーサー・ビナード「知らなかった、ぼくらの戦争」の前書きの書き出しにこうある。

ちょうど戦後四十五年のときに、僕はアメリカの大学を卒業して来日した。
つまり一九九〇年に。日本に来るまでは「戦後四十五年」を意識したことなどなく、認識すらしていなかった。

日本では太平洋戦争以後、別の戦争を起こしたり参戦したりしてこなかったため、“戦後”といえば意味はひとつしかない。しかし、著者の母国アメリカでは“戦後”といわれても意味が伝わらない。「その『戦後』って、どの戦争のあと?」と聞き返されてしまう。それだけアメリカは戦争を繰り返してきたからだ。

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パク・ミンギュ/斎藤真理子訳「ピンポン」(白水社)-いじめられっ子の二人の少年《釘とモアイ》。「あちゃー」なふたりがピンポンに出会った時、人類の運命は彼らにゆだねられる!

ピンポン (エクス・リブリス)

ピンポン (エクス・リブリス)

 

 

第1回日本翻訳大賞を受賞したパク・ミンギュ「カステラ」を読んだときの衝撃が再び。「ピンポン」を読み始めてすぐにそう感じた。「これはすごい」と。

s-taka130922.hatenablog.com

 

本書は、パク・ミンギュが2006年に発表した長編小説だ。主人公であり物語の語り部の僕は、みんなから『釘』って呼ばれてる。いつもチスに頭をガンガン殴られてるから、その姿が釘を打ってるみたいに見えるから『釘』だ。釘と一緒にチスとその仲間にいじめられているのが『モアイ』で、なんで『モアイ』かっていうと、あるとき担任がモアイ像の写真を見せて「似てるなー」って言ったから。

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ポール・トーディ/小竹由美子訳「ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン」(白水社)-『私の身体はワインでできているの』ではないけれど、ウィルバーフォース氏にはワインしか見えていない

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

 

 

お酒に関しての蘊蓄を語る人は多い。産地がどうとか、杜氏は誰かとか、何年物は葡萄の生育が良かったから味が良いとか悪いとか。中でもワインについては、ソムリエという職業もあったりして、それが立派に成り立っているのだから、ある意味奥が深いと言えよう。

ポール・トーディ「ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン」は、ワインにとりつかれたある男が主人公だ。

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犬猫みなしご救援隊/金子二三夫写真「鼓動~感じて欲しい小さな命の重み。」(書肆侃侃房)-この本の発行日は2012年3月11日。その日から5年、震災から6年が過ぎた今、救援隊の活動はまだ続いています。

鼓動 ―感じて欲しい小さな命の重み。

鼓動 ―感じて欲しい小さな命の重み。

  • 作者: 犬猫みなしご救援隊,写真/金子二三夫
  • 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
  • 発売日: 2012/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まず最初に注意しておいた方がいいだろうと思います。

本書には、2011年3月11日の東日本大震災とその後の福島第一原発事故により被災地に取り残された動物たちの写真が数多く掲載されています。救援隊の手で保護され、飼い主さんや一時預かりの方に引き取られて幸せを取り戻した動物たちがいる一方で、過酷な生活環境で病気になったり怪我をしたボロボロの身体になってしまった動物や命を落とした動物たちも数多くいます。写真には、そのすべてが記録され掲載されています。正直、見るのがつらい写真もあります。思わず目を背けてしまう悲惨な状態を写した写真もあります。

本書は、広島に本部を置いて動物の保護活動に尽力されているNPO法人『犬猫みなしご救援隊』東日本大震災被災地における犬猫保護活動の記録です。

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エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「穢れの町~アイアマンガー三部作(2)」(東京創元社)-「堆塵館」の驚愕のラストを読んだときから続きが気になって仕方なかった!「アイアマンガー三部作」待望の第2巻をひと足先に読んだ!すごかった!

穢れの町 (アイアマンガー三部作2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2)

 

 

「待ってました!」
前作「堆塵館」を読んだ方なら絶対にそう思っているはず。エドワード・ケアリーの「アイアマンガー三部作」の第2巻「穢れの町」がいよいよ刊行される。今回、東京創元社が募集した「読者ゲラモニター」に応募して当選したことで、刊行前のゲラ段階で「穢れの町」をひと足先に読ませていただく機会を与えられた。東京創元社から指定されたのは、「4月末までに読んで感想を東京創元社のサイトから登録すること」である。その後、およそ1ヶ月が経過し、刊行日を目前に控えたところで、改めてゲラを読み返しレビューを記してみたい。

なお、ネタバレなどは一切していないが「まっさらな気持ちで『穢れの町』を楽しみたい」という方もおられると思いますので、そういう方は「穢れの町」を読み終えた後で拙レビューをお読みいただければと思います。

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