タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

村田沙耶香「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」(マガジンハウス)-芥川賞作家がこじらせた大人の女性の思春期病。でも、それこそが作家の創作の原点なのかもしれない

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

 
きれいなシワの作り方?淑女の思春期病

きれいなシワの作り方?淑女の思春期病

 

 

この本は、書評サイト「本が好き!」を通じて版元のマガジンハウス様よりご献本いただきました。ありがとうございます。

www.honzuki.jp

ある日、「本が好き!」の運営スタッフさんから、

「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」について、マガジンハウス担当者から指名献本の要望がありましたが受けますか?

という内容のメッセージが届いた。

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フラワーしげる「ビットとデジベル」(書肆侃侃房)-#書肆侃侃房15周年 はじめて「歌集」というものを読んだ。短歌とはけっこう自由なものだと知った。

ビットとデシベル 現代歌人シリーズ

ビットとデシベル 現代歌人シリーズ

 
ビットとデシベル (現代歌人シリーズ)

ビットとデシベル (現代歌人シリーズ)

 

 

書肆侃侃房15周年記念プレゼント企画に当選していただいた中の1冊。「歌集」というものを読むのはこれがほとんど初めての経験になる。

《短歌》というと、万葉集とか百人一首とかの学校の古典の授業で習ったものを思い浮かべる。『五・七・五・七・七』の31文字で表現される《和歌》というやつ。その印象のためか、どうにも《短歌》というものには苦手意識があって、現代歌人も含めて「歌集」という作品集を手にとることはなかった。現代歌人としてもっとも有名な穂村弘さんでさえ、「エッセイ集」は楽しく読んできたが「歌集」は読んだことがないし、かつて一世を風靡した俵万智さんの「サラダ記念日」も読んだことがない

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ジェイムス・クリュス/森川弘子訳「笑いを売った少年」(未知谷)-世界が不穏な方向に向かっていると感じられる今、「笑うことができる」という幸せの意味を改めて考えてみたいと思う

笑いを売った少年

笑いを売った少年

 

 

子どもの笑い声は、周りを明るく元気にさせてくれる魔力を持っている。

ジェイムス・クリュス「笑いを売った少年」の主人公ティム・ターラーは、「最後にシャックリがついてくる、だれの心をも明るくしてしまうとびきりの笑い」を持っていた。

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ウィル・ワイルズ/茂木健訳「時間のないホテル」(東京創元社)-閉ざされ、歪められた空間で狂気と正義がせめぎ合うエンターテインメント

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

 
時間のないホテル (創元海外SF叢書)

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

 

 

内宇宙のホテル、謎の支配人、無限に繋がる絵画。
J・G・バラード『ハイ・ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』
悪夢的空間にそびえる巨大建築幻想SF

この帯の惹句に興味をそそられて読みたい本リストに加えていたウィル・ワイルズ「時間のないホテル」を、書評サイト「本が好き!」の献本でいただくことができた。なので「さっそく読んだ!」と書きたいところだが、他に読みかけの本があったのと、4月になって仕事が急に忙しくなったこともあり、読み始めるまでに時間がかかってしまった。「時間のないホテル」を読む“時間がない”というダジャレみたいな状況だった。

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大野木寛「乳房をふくませる」(だだしこ出版)−表紙にだまされないで!読めば分かる。「これは傑作だ!」と。

bookwalker.jp

筍の美味しい季節になりましたね。この時期になると、ご近所さんだったり親戚だったりけっこういろいろなところから採れたての筍をいただくことがあります。食べられるようにするまでの下処理が大変ですが、筍ごはんに煮物に天ぷら、細切りにして牛肉とピーマンと炒めればチンジャオロースと様々な料理に変身するのが楽しいですよね。

さて、大野木寛「乳房をふくませる」の最初の短篇「おすそ分け」は、ご近所さんから季節の風物詩たる《おすそ分け》をいただくお話です。この《おすそ分け》は甘辛く煮て食べると美味しいらしく、丁寧に下ごしらえをして圧力鍋で煮込みます。トロトロになるまで煮込まれた《おすそ分け》は口に入れただけで骨から身がホロリと外れるほどに柔らかく、酒の肴にご飯のおかずにと家族で競うようにいただくのです。

ね、美味しそうでしょ?

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小川洋子、今村夏子、星野智幸他「文学ムック たべるのがおそいVol.3」(書肆侃侃房)-待望の第3号!今回の特集は、漱石、鏡花、白秋を3人の注目作家が《Retold》します。

文学ムック たべるのがおそい vol.3

文学ムック たべるのがおそい vol.3

 

 

作家・翻訳家の西崎憲さんが編集長をつとめる「文学ムックたべるのがおそい」の第3号が刊行されたので、さっそく購入して読んだ。

冒頭、小川洋子の巻頭エッセイ「Mさんの隠れた特技」で衝撃を受ける。エッセイと書いたが、これは小川洋子の世界だ。どこまでが現実でどこからが空想なのか。その境界面の曖昧さが「Mさんの隠れた特技」にはある。読み始めはなんでもない話だったのに、最後にはちょっと怖い。小川洋子のこの作品を読むためだけでも、「たべるのがおそいVol.3」を買うべきだと思う。

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エドゥアルド・ハルフォン/松本健二訳「ポーランドのボクサー」(白水社)-祖父の左腕に刺青された『69752』の数字が意味する過去の物語。そして、今を生きる著者自身の物語。

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

 

 

69752。これはわしの電話番号だ。そこに、つまり左の手首と肘のあいだに、忘れないような刺青してもらったんだ。祖父は私にそう言った。そして私もそう信じて大きくなった。一九七〇年代、グアテマラの電話番帽は五桁だった。

表題作「ポーランドのボクサー」は、こんな書き出しで始まる。この短篇では、著者の祖父が若い頃に経験した話を著者が聞く物語だ。祖父の左腕に刻まれた五桁の数字が、彼にとってどんな意味を持つのか。何も知らない子どもの頃の著者は、その数字が祖父のアイデンティティにどんな影響を与えたのかを知らない。ユダヤ人である祖父が、アウシュヴィッツに収容され、そこでポーランドのボクサーと出会い、いかにして生き延びたのか。非常に短い小説の中に、祖父が経験した戦争の影が重く横たわっていると感じる。

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